「善意」って、こんなに簡単に踏みにじられるんだなって思った。
いつもバイトの昼休みは家に帰って一人でご飯を食べる。節約にもなるし、気も休まる。
でも今日は先輩が「金ないわ…」って笑いながら言うから、つい「うち来ます?うどん作りますよ」って言ってしまった。言った瞬間ちょっとだけ後悔したのに、もう引けなかった。
帰宅して急いで鍋を火にかけ、うどんを茹でて、だしを張って、ねぎを切った。湯気が立って、部屋が少しだけ“ちゃんとした昼”になる。
先輩はスマホをいじりながらズルズル食べて、「うまっ」とか言って、あっという間に完食した。
……その直後だ。
箸を置くより先に、ポケットからタバコを出して火をつけた。
うちは禁煙。灰皿もない。
「灰皿ないんで…」って言うと「まじ?じゃあ適当に…」って軽く返されて、嫌な予感がした。
せめてベランダで、せめて紙コップで、せめて一言聞いてくれれば——って思ったけど、私は強く言えなかった。
そして最悪の“適当”が来た。
先輩は、食べ終わった丼に残った黄色い汁の上へ、灰をパラパラ落として、最後には短くなった吸い殻を三本、ぷかぷか浮かべた。
私が毎日使ってる、食器の丼。そこに。
頭が真っ白になった。怒鳴りたいのに声が出ない。
腹が立つより先に、胸の奥が冷たく沈んだ。
「あ、この人は、私の家も、私の手間も、私の境界線も、全部どうでもいいんだ」って理解してしまったから。
私は黙って丼を持ち上げて台所へ行き、流水で流した。煙草の匂いと、だしの匂いが混ざって、吐き気がした。
戻ると先輩はまだ吸っていて、何事もなかった顔で「もう一本いい?」って聞いてきた。
そこでやっと言えた。
「今日はもう帰ってください」
先輩は「は?何で?冗談だろ」って笑って、次の瞬間「器くらいでキレんなよ。小せえな」って逆ギレ。
私は落ち着いた声で返した。
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