先日、仕事の合間に外へ出たときのことだった。
午後の道は、妙に静かだった。
車の音だけが遠くで流れていて、春でも夏でもないような、少しぼんやりした空気があった。
私は急ぎ足だった。
次の予定まで、あまり時間がない。
頭の中では、やることリストがぐるぐる回っていた。
その時、道端に一人のおじいさんが立っているのが見えた。
小柄で、背中が少し丸い。
片手に紙切れを握っている。
もう片方の手で、周囲を何度も見回していた。
明らかに、困っている人の動きだった。
でも、正直に言う。
最初の私は、少しだけ見ないふりをしようとした。
忙しかった。
急いでいた。
それに、こういう時に声をかけると、話がどこまで広がるかわからない。
大人の生活には、親切心だけでは動けない瞬間がある。
けれど、すれ違う直前、おじいさんがこちらを見た。
「あの……すみません」
その声があまりに小さくて、私は足を止めてしまった。
「どうされました?」
おじいさんは、くしゃっと折れた紙を私に見せた。
そこには、電話番号だけが書かれていた。
住所はない。
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