賃貸の部屋を引っ越すことになった。
荷造りは、思ったより順調だった。
段ボールに本を詰める。
食器を新聞紙で包む。
使っていないケーブルを見つけて、「これは何の命綱だったんだ」と首をかしげる。
そんな平和な引っ越し作業だった。
この部屋には、何年も住んだ。
楽しいこともあった。
寝坊して駅まで走った朝もあった。
夜中にカップ麺をすすりながら、人生を反省した日もあった。
壁も床も、私の生活を黙って見てきた。
だから退去前の掃除は、少しだけ丁寧にやった。
水回りを磨き、窓を拭き、床も何度も見直した。
「まあ、これなら大丈夫でしょ」
そう思っていた。
甘かった。
退去立ち会いの日。
管理会社の担当者が来た。
手にはチェックシート。
顔には営業スマイル。
私は少し緊張しながら、部屋の中を案内した。
壁紙。
キッチン。
風呂場。
収納。
大きな問題はなさそうだった。
担当者も、淡々とうなずいている。
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