「すみません、私道に車を停められていて、出入りができないんです」
電話口でそう伝えたとき、私は正直、すぐに解決すると思っていた。
だって——人の土地に勝手に車を置くなんて、どう考えてもアウトでしょ?
しばらくして、警察が到着した。
現場を確認し、車を一周見てから、こう言った。
「ナンバーで照合して、持ち主に連絡はできます」
私はすぐに聞いた。
「じゃあ、罰にはなりますよね?」
「……それは、できません」
「じゃあ強制的に移動は?」
「……それも、できません」
一瞬、耳を疑った。
「え?じゃあこれ……やられ損ですか?」
警察官は、少しだけ目を逸らしてから答えた。
「……はい」
頭の中が真っ白になった。
被害を受けているのは、こっちだ。
通れない。生活に支障が出ている。
なのに——
何もできない?
理由はシンプルだった。
ここは「私道」。
つまり、刑事ではなく民事扱い。
警察は基本的に介入できない。
じゃあ、自分でどうにかすればいい?
——それもダメ。
勝手に動かせば「器物損壊」になる可能性。
タイヤロックをすれば、逆に訴えられるかもしれない。
つまりこの状況は——
「相手はやりたい放題、こっちは何もできない」
ふざけてる。
本気で、そう思った。
でも、そのまま引き下がる気はなかった。
私は一度家に戻り、すぐに動いた。
まず、その車の状況を写真と動画で徹底的に記録。
時間、位置、ナンバー、すべて残す。
次に、弁護士に相談した。
そして言われた。
「確かにその場で強制排除はできません」
「ですが——継続的な被害として証拠を積めば、“損害”として請求できます」
その瞬間、道が見えた。
私は待った。
翌日も、その車はそこにあった。
さらに証拠を追加。
そして三日目。
ようやく、持ち主が現れた。
何事もなかったかのように、エンジンをかけようとする。
その瞬間、私は声をかけた。
「すみません、その車——記録、全部残ってます」
相手は一瞬、固まった。
「え?」
「ここ、私道なんで。警察は動けないって言われました」
「でも、その代わり——こちらで対応する準備は全部できてます」
スマホの画面を見せた。
日付付きの写真、動画、通行が妨げられている記録。
そして——
弁護士からのアドバイスメモ。
「損害として請求することも可能ですし、継続すれば不法侵入として扱えるケースもあります」
相手の顔色が、みるみる変わった。
「いや、ちょっと停めただけで……」
「“ちょっと”でも、生活に支障が出てます」
数秒の沈黙。
そして相手は、何も言わずに車を動かした。
それだけじゃない。
後日、正式に連絡が来た。
「今後は一切、駐車しません」
それどころか——
謝罪までしてきた。
あのとき警察に言われた言葉。
「やられ損です」
確かに、その場ではそうだったのかもしれない。
でも——
“何もできない”と、“何もしない”は違う。
ルールの外でも、戦い方はある。
泣き寝入りするかどうかは、最後は自分次第だ。