「これ…やばいぞ」
阪神高速の合流手前。
前にいたトラックを見た瞬間、無意識にアクセルを緩めた。
足場材が、山みたいに積まれている。
——いや、“積まれている”というより、
無理やり押し込まれて、片側に崩れている。
右に傾いた荷台。
走るたびに、ギシッ…と音がしそうな歪み。
「落ちるだろ、これ」
助手席の同僚が小さく呟いた。
しかも場所が悪い。
この先は、カーブが続く区間。
速度も自然と上がる。
「車間、空けとけ」
そう言いながら距離を取る。
でも後ろからはどんどん車が詰めてくる。
逃げ場がない。
その時だった。
前のトラックが、急にふらついた。
「うわっ!!」
思わず声が出た。
積まれていたパイプの一部が、ズレた。
ほんの数センチ。
でも、それで十分だった。
バランスが完全に崩れかける。
「これ、マジで来るぞ」
心臓がドクンと跳ねた。
ブレーキを踏むか?
でも後ろも詰まってる。
避けるか?
でも横も車がいる。
完全に“巻き込まれる側”の位置。
「やばい、やばい、やばい…」
その瞬間、なぜか思い出した。
数年前、ニュースで見た事故。
同じような積み方のトラックが横転して、
後続車が次々に突っ込んだやつ。
「これ、同じになるぞ」
迷う時間はなかった。
片手でハンドルを押さえながら、もう片方でスマホを取る。
110。
「すみません、今すぐ対応してほしいです」
声が思ったよりも震えていた。
「高速で、明らかに危険な積載のトラックが走ってます。今にも崩れそうで——」
説明している最中にも、トラックは揺れる。
オペレーターが言った。
「距離を取って、そのまま走行を続けてください」
……え?
「止めないんですか?」
一瞬、間があった。
「現場に向かっていますので、そのまま安全を確保してください」
——つまり、
今すぐは止められない。
「このまま行かせるのかよ…」
そう思った瞬間。
トラックが、また大きく揺れた。
「うわあああ!!」
今度ははっきり見えた。
上に積まれていた資材が、滑り落ちかけた。
完全に、限界。
その時だった。
前方に、赤色灯。
「来た!!」
パトカーが、対向の入口から強引に合流してくる。
サイレンが鳴り響く。
トラックの運転手が気づいた瞬間、
明らかに動きが変わった。
焦ったのか、ハンドル操作が乱れる。
「やめろ、そこでブレーキ踏むな…!」
全員が息を呑んだ。
でも——
警察はすぐ横につけて、拡声器で叫んだ。
「そのまま減速して路肩へ寄せてください!」
トラックは、ギリギリのバランスのまま減速。
ゆっくり、ゆっくりと路肩へ。
全員が見守る中——
止まった。
完全に。
その瞬間、車内の空気が一気に抜けた。
「……助かった」
心の底からそう思った。
後から見えた光景に、ゾッとした。
荷台の資材は、あと少しで崩れる状態だった。
あと一回、あの揺れが来ていたら。
確実に終わっていた。
警察が運転手に厳しく指示しているのが見える。
さっきまで普通に走っていたあのトラックが、
今は完全に“危険物”として止められている。
あの時、通報しなかったら?
誰かが死んでいたかもしれない。
いや——
自分だったかもしれない。
正義感とかじゃない。
ただ一つ。
「おかしい」と思った瞬間に動いたかどうか。
それだけで、未来が変わった。