終電一歩手前の電車で、俺は人生でいちばん「善意」を疑った。
「お席どうぞ」って言っただけなのに、相手は一歩引いて叫んだ。
「やめてください!触らないで!」
次の瞬間、スマホのレンズが俺を撃ち抜いた。まるで俺を“晒すため”に待ってたみたいに。
その日、俺は残業で頭がぼんやりしてた。
立ってるだけで吐き気がするくらい疲れてて、それでも席の前に年配の女性が立ってたから、反射で立ち上がった。
「よかったら座りますか?」
それだけ。ほんとにそれだけ。
なのに、相手――二十代後半くらいの女は、怯えた顔で大げさに後ずさって、車内に響く声を出した。
「無理!気持ち悪い!触らないでって!」
……触ってねぇよ。
俺の手、つり革から離れてすらいねぇよ。
車内の空気が、一瞬で変わった。
見知らぬ人の視線が、いっせいに俺に刺さる。
「え、痴漢?」
「今の見た?」
「怖…」
その女はスマホを構えて、俺を真正面から撮り始めた。
しかも、口角だけ上げてる。泣いてもいない。震えてもいない。
“撮れ高”が取れたって顔。
俺は、喉の奥がギュッとなって、うまく声が出なかった。
「違います、席を――」
言いかけた瞬間、女が被せてくる。
「ほら!そうやって話しかけてくるのが怖いんですけど!」
ああ、詰んだ。
説明すればするほど、悪者になるやつだ。
次の日の朝。
会社のLINEグループを開いた俺は、膝が抜けた。
【地鉄怪人www】
【昨日乗ってた人いる?】
【これマジ?】
動画が貼られてた。
俺が席を譲ろうとして立ち上がった瞬間から、女の「触らないで!」まで。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください