朝のラッシュ、優先席の端っこで私は“死にかけて”ました。
比喩じゃない。低血糖で視界が白く滲んで、耳の奥がゴウゴウ鳴って、指先だけが冷たい。立っていたら確実に倒れるやつ。だから私は座っていた。膝の上には、潰れかけた飴。握力だけで命をつないでる感じ。
その瞬間、斜め前の中年男性が眉をひそめて言った。
「若いんだから、占領しないで。妊婦さんに譲りなさい」
声は大きい。正義の音量はいつも大きい。
私は「すみません、私…」まで言いかけた。喉が締まって、声がかすれる。
すると男性は勝手に結論を出す。
「ほら、言い訳。最近多いんだよ、体調悪いフリして座る人」
その一言で、車内の空気が“裁判”に変わった。

周りの視線が一斉に刺さる。
「若いのにね」
「優先席だよ」
「妊婦さんかわいそう」
私は被告席に座ってるみたいで、息が浅くなる。
…譲らなきゃ。そう思って立ち上がった。
でも、立った瞬間に足が抜けた。膝が笑うんじゃない、膝が消える。
手すりに手を伸ばしたのに掴めなくて、掌から飴がバラバラ落ちた。
床に転がる音が、やけに大きい。
“社死”って言葉、こういう時のためにあるんだと思った。
そのとき、隣に立っていた若い妊婦さんが、静かに言った。
「…この人、顔色おかしい。先に座らせてください。
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