22時すぎ。残業で頭がもう回らない。胃の奥がキュッと縮む感じのまま電車に乗って、空いた席にようやく腰を落とした瞬間――
来た。
ディズニーの紙袋を両手に山ほど抱えた女性が2人、車両に滑り込んできた。耳にはまだ夢の国の余韻みたいなテンション。だけど視線は真っ直ぐ、私に刺さる。
片方が、私の隣にドスンと座る。もう片方は立つ。
そして、始まる。
「はぁ~~疲れたぁ。ほんと疲れた~~」
「座りたい~。眠い~」
でっかい声。必要以上に。しかも、ちらちら私を見ながら。
……あ、これ。
“譲れ”ってやつだ。
いや待って。優先席でもない。私は仕事帰り。身体が鉛みたいで、息するだけでも疲れてる。
そっちは好きで行ったんでしょ、ディズニー。遊んできた疲れと、働いてきた疲れを同列に置くなよ――って思った瞬間、私はスッと無表情になって、視線を窓に流した。
無視。
反応しない。
すると彼女たち、舞台のボリュームを上げてきた。
「え~マジ無理。立ってられない~」
「足ちぎれそう~」
「袋重い~」
まるで“可哀想な私たち”の公開朗読会。車内の空気を支配するように。
私はただ、呼吸してた。
反論も、説教も、いらない。
この手の人たちは、相手が言い返した瞬間に“被害者”になるのを知ってるから。
……と思ったら。
隣の女が、肘で私をコツン。
え?と思ったけど、黙る。
コツン、もう一回。
さらにもう一回。さっきより強く。
「ねえ」と言いたげな顔。
言葉じゃなく、肘で命令してくる。
その瞬間、私の中で何かが切り替わった。
怒りじゃない。
“処理モード”に入った。
私はゆっくりスマホを取り出した。
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