夜のタクシーって、車内の明かりだけが頼りで。
外は暗いし、財布の中も暗いし、たまに自分の判断すら暗い。
昨日それを、心臓で思い知った。
料金はたぶん800円台。
私はポケットから千円札を出して、運転手さんに渡した。
お釣りは200円ちょいくらいだな、って計算して——
降り際、いつもの軽いノリで言った。
「お釣りいらないです」
…その瞬間。
「ええ!?いいんですか!?ありがとうございます!!」
運転手さんが、びっくりするほど大きな声で言った。
いや、声だけじゃない。
声の“温度”が違った。うれしさがあふれて、今にも泣きそうな勢いの「ありがとうございます」。
私はその場で、固まった。
え、待って。
200円くらいで、ここまで驚く?
もちろん、喜んでもらえるのはうれしい。
でも、この反応は…うれしいというより、“事件”のテンション。
車のドアを半分閉めた状態で、脳内警報が鳴った。
(私、千円じゃなくて…一万円出してない?)
冷や汗って、本当に背中を伝うんだね。
あの瞬間、体の温度だけが下がった。
いったん歩き出したのに、二歩で止まった。
財布を開く。暗い。指が震える。
お札の並びを見る。
……なんか、減ってる気がする。
「いや、気のせいだよね」って自分に言い聞かせながら、もう一回数える。
でも、さっきまで入ってた“気配”の札がない。
夜の車内。
新札って、くっつく。
あの感触。
渡した時、少し厚かった気もする。
頭の中で、最悪の未来が走馬灯みたいに流れた。
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