ディズニーに着いた瞬間から、もう限界だった。
子どもはぐずる。私は眠い。靴は初手から足の皮を持っていく勢いで擦れて、歩くたびに「痛っ」と声が漏れそうになる。しかも、車で何百キロも走ってきた直後。休憩はした。したけど、子連れの長距離移動って、休憩しても回復しないやつだ。
「やっと着いたね。楽しいね」
そう言いながら、私の頭の中は“気合いで立ってる”だけだった。
入園して、まだ一時間も経ってない。
並ぶ前の導線で、子どもが「抱っこ、抱っこ」って暴れ始めた。ベビーカーに乗せても反り返って泣く。周りの視線が刺さって、焦って、汗が一気に出る。
そのとき。
後ろから、刺すみたいな声が飛んできた。
「は? 子ども連れてくんなよ。邪魔なんだけど」
「泣かせんなって。迷惑」
……え、今、私に言った?
振り返ると、同じように疲れた顔の大人が、眉間にしわ寄せてこっちを見ていた。手にはスマホ。目は完全に“敵”だった。
私はその場で固まった。反論したいのに言葉が出ない。だって、こっちは泣かせたくて泣かせてない。頑張ってる。必死で頑張ってる。だけど、そんなの相手は知らないし、知ろうともしない。
胸の奥がギュッとなって、涙が出そうになった。
子どもを抱き直して、私は人の流れから外れて、少し離れたところに避難した。とにかく、迷惑にならない場所。目立たない場所。呼吸できる場所。
ベンチの近くでしゃがみ込んだ瞬間、堪えてたものがほどけて、視界が滲んだ。
「私、何しに来たんだろ」
頭の中に、そんな言葉が浮かんで消えた。
その時だった。
目の前で清掃をしていたキャストさんが、ふっと動きを止めた。
私と子どもを一瞬だけ見て、何も言わずに、ほんの少しだけ頷いた。
次の瞬間、その人は近くの小さな水たまりにモップを軽く浸して、地面にスッ、スッ、と線を引き始めた。
え? 何してるの?
数秒で、そこに“ミッキー”が現れた。
水で描かれたミッキー。輪郭は簡単なのに、ちゃんとミッキー。しかも最後に、ちょん、って小さく描き足して、まるで「うん、だいじょうぶ」って頷いてるみたいな仕草に見えた。
私の子どもが、泣きながら一瞬止まって、
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