「ガキがドア全開でぶつけた瞬間、親はこっち見て目逸らした。」
――あ、まただ。
あの鈍い「ゴン」という音は、一度経験すると一生忘れない。数年前、スーパーの駐車場でやられた。ミニバンのスライドじゃない普通のドア。思いきり開けられて、見事に凹んだ。親は「気づきませんでした」で逃げ、私は泣き寝入り。修理代は自腹。
それ以来、私は駐車場では必ず端に寄せる。壁側、柱側、できるだけリスクを減らす。それが“自衛”だった。
その日も、ほぼ満車。空いているのはミニバンの隣だけ。嫌な予感しかしない。でも他に選択肢はなかった。私はギリギリまで左に寄せ、エンジンを切った。
直後だった。
隣のミニバンの後部ドアが勢いよく開く。小学生くらいの子どもが、何も見ずにドンッと外へ飛び出す。
「ゴン」
鈍い衝撃音。私の車体が微かに揺れた。
見れば、はっきりとした凹み。塗装も削れている。
そして母親。一瞬こちらを見た。確実に目が合った。なのに、すぐに視線を逸らし、「ほら早く行くよ」と子どもの手を引いて歩き出した。
逃げる気だ。
私はすぐに車を降りた。
「今、当たりましたよね?」
母親は立ち止まり、困ったような顔を作る。「え? うちの子ですか? 子どもなんで……」
出た、その言葉。
「子どもなんで?」それで済むと思ってる?
私は凹みを指差した。「明らかに当たってますよね」
すると母親の表情が変わった。
「そんなとこ停めるからでしょ? 狭いんだから仕方ないじゃないですか」
は?
仕方ない?私が悪い?
「うちの子、まだ小さいんです。わざとじゃないんで」
完全に“被害者ぶり”。
その瞬間、私は冷静になった。
「わかりました」
そう言って車内に戻り、スマホを操作する。そしてドライブレコーダーの映像を再生した。
私は前回の件以来、側面も映るタイプに変えていた。駐車中録画モード付き。
画面には、はっきりと映っている。ドアが勢いよく開く瞬間。私の車にぶつかる様子。母親がこちらを見て目を逸らすところまで。
私はその画面を母親に見せた。
一瞬で顔色が変わった。
「……え」
「記録残ってます。警察呼びますね」
そう言って110番した。
母親は慌てて言う。「ちょ、ちょっと待ってください、大げさじゃないですか?」
さっきまで強気だったのに?
数分後、警察と店舗の警備員が到着。事情説明。店舗側も防犯カメラを確認。
結果は明白だった。
警察官が母親に淡々と言う。「当ててそのまま立ち去ろうとしましたね?」
母親は完全に下を向いた。
最初は「子どもなんで」と言っていた人が、今度は「すみません、本当に気づかなくて……」
いや、目合ったよね?
修理費は保険対応。全額負担。その場で正式に謝罪。
周囲には買い物客と警備員。ちょっとした人だかり。
私は最後にだけ言った。
「子どもは理由になりません」
静まり返る空気。
私はそれ以上何も言わなかった。怒鳴りもしない。説教もしない。
ただ車に戻った。
エンジンをかけながら、ふと思った。
あの時、泣き寝入りした自分。「仕方ない」と諦めた自分。
でも今回は違う。
子どもが悪いわけじゃない。でも“責任”は消えない。
そして何より――逃げようとしたその態度が、一番許せなかった。
駐車場は戦場じゃない。でも、無責任な一瞬で他人の財産は傷つく。
私は今日、やっと過去の自分に決着をつけた気がした。
もう二度と、黙らない。