「退職しただけで64万円請求されたんだけど?」
ポストに入っていた1枚の紙を見た瞬間、心臓が止まるかと思った。
タイトルは――「損害賠償請求通知書」。
合計金額、647,000円。
意味が分からなかった。
私はただ会社を辞めただけだ。
それだけで、なぜこんな金額を払わなければならない?
内訳を見るとさらに混乱した。
作業着、資格再受験、遅刻による損害、車のレンタル費、鍵紛失、タイヤ修理……。
まるで「辞めた罰金一覧表」みたいだった。
しかも支払い期限は1週間。
応じなければ法的措置。
頭が真っ白になった。
「本当に払わないといけないのか…?」
辞めた会社は、正直言ってかなり強引だった。
体調不良で休んだだけで「やる気がないなら辞めろ」と言われ、半ば強制的に退職扱い。
揉めたまま終わったけど、まさかここまでしてくるとは思わなかった。
怖くて眠れなかった。
64万円なんて簡単に払える額じゃない。
でも裁判なんてされたらもっと大変なんじゃないか。
震える手でネットを調べ、無料法律相談を予約した。
そして弁護士にその紙を見せた瞬間――
笑われた。
「これ、かなり無茶ですね」
え?
「まず、損害の根拠が曖昧。遅刻“数回”で30万円?普通は成立しません。資格費用も返還合意がなければ請求不可。車のレンタル?因果関係の証明が必要。文書形式も不完全。かなり問題あります」
つまり――
「払う義務、ほぼありません」
全身の力が抜けた。
でも弁護士は続けた。
「それどころか、不当解雇と威圧的請求。こちらから請求できますよ」
頭が追いつかなかった。
え、こっちが…請求?
そこから一気に流れが変わった。
弁護士名義の内容証明を会社へ送付。
損害請求の根拠提示要求。
不当解雇の説明要求。
精神的苦痛への損害賠償請求。
送付から3日後。
会社から電話が来た。
声が明らかに慌てていた。
「今回の請求は…行き違いで…撤回を…」
でももう遅い。
こちらは正式に訴訟準備に入っていた。
調査の結果、退職強要の発言記録、業務過多の証拠、請求書の不備、すべて揃った。
数ヶ月後――
裁判所の判断。
解雇は無効に近い不当対応。
請求は合理性なし。
威圧的な金銭請求は精神的苦痛を与えた。
そして会社に命じられたのは――
慰謝料支払い。
金額は80万円。
あの請求額を、上回った。
判決文を読んだ時、思わず笑ってしまった。
あんな紙1枚で人を脅そうとした結果がこれだ。
後日、会社の代理人から丁寧すぎる謝罪文が届いた。
でももうどうでもいい。
私が一番忘れられないのは、弁護士に言われた最初の一言だ。
「怖がる必要ありません。これは法律じゃなくて“圧力”です」
本当にそうだった。
無知と恐怖につけ込めば、払う人がいると思ったんだろう。
でも今回は違った。
退職しただけで人生を壊される理由なんて、どこにもない。
もしあの時、何も知らずに払っていたらと思うとゾッとする。
だから聞きたい。
会社から理不尽な請求が来た時――
あなたなら、どうしますか?