「〇〇さんのご自宅前に停めていた車のドアミラーが壊されている件で、何かご存じありませんか?」
その電話を受けた瞬間、私は思わず笑いそうになった。
——いや、その前にさ。
人の月極駐車場に、何度も勝手に停めるな。
これは、ある“常習犯”との話だ。
私は都内のアパートで、月2万円払って駐車場を借りている。
小さな敷地だが、契約書もあり、きちんと管理会社を通して借りている正規の区画。
ある日、仕事から帰ると、知らない黒のSUVが堂々と停まっていた。
ナンバーは近隣県。連絡先の紙もない。
完全に無断駐車。
すぐ警察に電話した。
だが返ってきた言葉は予想通りだった。
「私有地ですので、強制的なレッカー移動はできません。民事になります」
出た。
毎回これだ。
結局、車の持ち主が戻るまで私は近くのコインパーキングへ。
その日だけで4,800円の出費。
数時間後、戻ってきたのは近所のアパートに住む男だった。
「すぐ戻るつもりだったんで」
悪びれもせず、それだけ。
私は冷静に言った。
「ここ、私が契約してる月極なんです。次やったら警察と管理会社に正式に連絡します」
男は「はいはい」と軽く返して去った。
だが、それで終わる相手ではなかった。
数週間後、また同じ車。
さらにその次の週も。
私はその都度写真を撮り、日時を記録し、警察への通報履歴も残した。
だが状況は変わらない。
そして事件は起きた。
ある朝、そのSUVのドアミラーが見事に折れていた。
バキッと根元から。
私は正直、触れていない。
むしろ、触れないように距離を取っていた。
その日の夕方、警察から電話が来たのだ。
「近隣トラブルの可能性があるとのことで…何かご存じありませんか?」
事情聴取のため、私は交番へ。
すると例の男が被害者面で座っていた。
「この人、ずっと俺のこと睨んでたんです。怪しいと思って」
は?
私はスマホを出した。
「無断駐車の証拠、全部ありますけど?」
画面には、日付入りの写真がずらり。
警察への通報履歴。
管理会社へのメール。
警察の表情が変わった。
「…なるほど」
男は急に黙った。
私は続けた。
「ちなみに、私の自宅には防犯カメラがあります」
実は、二度目の無断駐車の後に設置していた。
警察立ち会いのもと映像を確認。
そこには、夜中に通りかかった酔っ払い風の男が、ふざけ半分でミラーを蹴る姿がはっきり映っていた。
無断駐車の男ではない。
もちろん、私でもない。
場の空気が一変した。
被害者ぶっていた男は、今度は青ざめた顔。
警察官が静かに言った。
「まず、無断駐車は不法行為です。継続しているなら、こちらも正式に対応します」
その場で私は、これまでの被害額を提示した。
コインパーキング代、時間的損失、精神的負担。
さらに管理会社も呼ばれ、男は正式に警告を受けた。
「今後一切、当該区画に駐車しないこと。違反した場合、即通報対象」
そして警察は続けた。
「不法侵入の要件に該当する可能性もあります」
男の顔が完全に崩れた。
結局、ミラー破壊犯は後日特定され、別件で書類送検。
そして無断駐車の男は——
それ以来、一度も現れていない。
数か月後、アパートの前に引っ越し業者のトラックが停まっているのを見た。
私は窓越しに、静かに見送った。
何もしていない。
壊してもいない。
触れてもいない。
ただ、記録し、通報し、証拠を残し、合法で詰めただけ。
日本では「私有地だから動けない」と言われることが多い。
でも、動けないのは“感情的に暴れた場合”だ。
冷静に積み上げれば、立場は逆転する。
最後に警察が私に言った言葉が印象的だった。
「記録を残してくれていて助かりました」
——そう。
勝つのは、怒鳴った人間じゃない。
準備していた人間だ。
そして私の駐車場は、今日も空いている。
当たり前のことが、ちゃんと守られている。
それだけで、十分にスカッとする。