男性陣にお願いがある。
自分の席の範囲内で、座ってくれ。
あの日、3時間弱。
地獄だった。
隣に座った男性。
半ズボン。
最初から、足が思いきり開いている。
私の太ももに、じわっと当たる肌。
そして、体毛。
ゾワッとした。
「たまたまだよね」
そう思って、私は自分の足を少し閉じた。
数秒後。
また当たる。
さらに広がる。
は?
もう一度、私は体を内側に寄せる。
でも、また広がる。
まるで押し返してくるみたいに。
しかも3時間コース。
密室。
逃げ場なし。
隣は見知らぬ男。
でも、限界だった。
私はハッキリ言った。
「すみません、足、閉じてもらえますか?」
男は一瞬こちらを見た。
「え?」
とぼけた顔。
私は声を落とさなかった。
「さっきからずっと当たってます。
3回目です」
車内が静まり返る。
前に立っていた女性がこちらを見る。
向かいの席の男性も視線を向ける。
男は少しだけ閉じる。
…10秒後、また開く。
完全にキレた。
「開くなら、大きい声で言いますよ?」
男の顔が赤くなる。
「いや、そんな…」
私はさらに踏み込んだ。
「あなた、自分の娘さんが、隣にあなたみたいな人が座っても平気ですか?」
一瞬で空気が凍った。
男の目が泳ぐ。
周囲の視線が一斉に刺さる。
立っていたサラリーマンが小さく言った。
「ちゃんと閉じればいいだけだろ」
逃げ場がなくなった。
男は両膝をぴったり閉じた。
それ以降、一切触れない。
できるじゃん。
最初から。
数分後。
男は次の駅で降りた。
顔を伏せ、足早に。
背中が小さく見えた。
私はそのまま座り続けた。
さっきまで侵食されていた空間が、
ちゃんと半分戻っていた。
若いとかおじさんとか関係ない。
閉じられるなら、最初から閉じて。
境界線を越えたのはあっち。
引き直したのは私。
あの無地自容の顔。
忘れない。
正直、スッとした。