先ほどパトカーに送迎いただき帰宅。
自宅の前で降ろしてもらい、ドアを閉めた瞬間、全身の力が抜けた。
でも、あの顔だけは、今もはっきり浮かんでいる。
数ヶ月前。
旧友と酒を飲み、博多駅から電車で帰る途中だった。
隣に座った女性が、眠りに落ちかけている。その奥に座る男が、自然すぎる動きで腕を回し、頭を女性に寄せていた。
前に立っていた女性と目が合った。
違和感。
私は肘で何度か合図を送った。
三、四度目で女性が気づき、小さく聞く。
「隣の人、知り合い?」
肩を震わせながら、
「…知らない」
スイッチが入った。
「何してんの」
男は睨みつけてきた。
「お前は誰や」
「誰でもいい。何しよるんや」
その隙に女性は誘導され移動。
私は男の横に詰めて座り、逃げ道を塞いだ。
「謝れ」
「身分証明書出せる?」
「持ってない」
「じゃあ警察呼ぶ。問題ないよな?」
次の駅で警察。
さっきまで吠えていた男が、警察官の前で崩れ落ちた。
泣きながら謝罪。
被害女性は震えながら「もう大丈夫です」と言った。
私は一瞬、迷った。
追い詰めるべきか。
結局その日は厳重注意で終わった。
——あれで終わったはずだった。
数ヶ月後。
帰宅途中の車内で、背筋が凍る。
同じ顔。
同じ目。
別の車両。
そして、また。
眠そうな女性の横に座り、距離を詰めている。
女性の指が震えていた。
私は立ち上がった。
「またお前か」
男の顔色が一瞬で変わった。
血の気が引き、目が泳ぐ。
「ち、違う!」
私は女性の前に立った。
「知り合いですか?」
「…知らない…こわい」
その一言で、私は決めた。
「前もやったよな?警察沙汰になったの覚えとるやろ」
男は暴れた。
怒鳴り、座席を蹴る。
でも今度は違う。
「見ました」「さっきから触ってました」
声が増える。
逃げ場が消える。
次の駅で警察が乗り込む。
私ははっきり言った。
「現行です。前回も同一人物です」
男は取り乱し、泣き叫び、抵抗した。
だが警察官が腕を取り——
「現行犯逮捕します」
その瞬間、車内の空気が変わった。
手錠。
男は引きずられるように連れて行かれた。
駅のホームで、私は警察官に言った。
「何時までも付き合いますよ!それ相応のペナルティを与えてください!」
警察官は静かにうなずいた。
「今回は前歴も考慮されます」
その言葉を聞いたとき、胸の奥の棘が抜けた気がした。
パトカーの中で、私はふっと笑った。
僕は明日休みです。
だから最後まで付き合えた。
でも、もしあの日見逃していたら——
今日も誰かが震えていたかもしれない。
優しさだけでは止まらない。
泣いても、許されないことはある。
あの日、謝罪で終わった男は、
今日は手錠で終わった。
自分で蒔いた種は、自分で刈り取る。
ヒーローなんかじゃない。
ただ、二度目を許さなかっただけだ。
そして今夜、
震えているのは——
加害者のほうだった。