退職者が出たので、
その人の携帯を解約することになった。
電源を入れて、初期化の準備をする。
ただ、それだけの作業だった。
なのに――
「ピコン」
LINEの通知が一件。
開くつもりはなかった。
本当に、なかったのに。
指が触れてしまった。
画面が切り替わる。
そこに表示されたのは、
社内の数名と、社長が入っているグループLINEだった。
嫌な予感がした。
閉じようとした、その瞬間。
目に入った。
――私の名前。
そして、その下にあった一文。
「正直、あの人いない方が楽だよね」
一瞬、何を見ているのか分からなかった。
スクロールもできない。
手が、止まった。
そのあと、少しずつ理解していく。
ああ、これ、冗談じゃない。
ただの悪口でもない。
“本音”だ。
しかも――
そこにいたのは、毎日顔を合わせている人たち。
一緒に仕事をして、
困っていたら手伝って、
「助かりました」と言っていた人たち。
……全部、嘘だったんだ。
私は、どちらかというと目立たない仕事が多かった。
誰かのミスを裏で直す。
誰かが詰まっている部分を先に処理する。
全体が止まらないように、裏で繋ぐ。
評価されることは、ほとんどない。
だからきっと――
「いなくてもいい人」だと思われていた。
でも、違った。
私は、“目立たないだけで”、
この現場を繋いでいた側だった。
次の日から、私は何も言わなかった。
ただ、やめた。
頼まれても、やらない。
自分の仕事以外は、一切手を出さない。
今までなら先回りしていたことも、全部やめた。
すると、すぐに違和感が出始めた。
「あれ、この処理って誰がやってましたっけ?」
「これ、前はもっと早く回ってましたよね?」
私は関わらなかった。
「すみません、自分の担当じゃないので。
」
それだけ。
数日もすると、完全に回らなくなった。
小さなミスが増える。
進行が遅れる。
誰もフォローできない。
“いない方が楽”なはずの私が、
いなくなっただけで――
現場は止まり始めた。
でも、その時になっても、
誰も何も言わなかった。
謝罪もなければ、
気づいた様子すらない。
……本当に、終わってると思った。
そして、退職の日。
最後の挨拶を終えて、
私は荷物をまとめていた。
その時、一人が言った。
「今まで、色々助けてもらって…ありがとうございました」
……遅い。
私はその人の目を見て、静かに言った。
「そのLINE、見えてましたよ」
一瞬で、空気が止まった。
誰も、何も言えなかった。
私はそれ以上、何も言わなかった。
ただ、そのまま会社を出た。
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