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「水だけなら帰れ」最低の店主だと思った。だが、その夜病院で私が知った本当に最低な男は夫だった。
2026/06/12

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ゴールデンウィークの夜だった。

夫が「なんだか体がだるい」と言うので、外食の予定をやめようかとも思った。

だが夫は、

「焼き鳥くらいなら食べられる」

と言う。

せっかくの連休だったこともあり、私たちは近所の焼き鳥屋へ向かった。

ところが店の入口で足が止まった。

そこには大きくこう書かれていた。

「水しか飲まない方は他店へどうぞ」

さらに、

「当店はアルコール注文制です」

とも書かれていた。

私は思わず眉をひそめた。

なんて感じの悪い店なんだろう。

その時の夫は体調が悪く、水しか飲めそうになかった。

店内に入り、私は店員に事情を説明した。

「主人、体調が悪くて。今日は水かソフトドリンクだけでも大丈夫ですか?」

すると奥から五十代くらいの店主が出てきた。

そして申し訳なさそうな顔も見せず言った。

「申し訳ありません。当店はアルコール注文制です」

私は驚いた。

「でも体調が悪いんです」

そう言うと店主は静かに答えた。

「飲めないなら他のお店へお願いします」

正直、腹が立った。

目の前に具合の悪い客がいるのに。

融通も利かないのか。

夫も苦笑いしながら席を立った。

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私は店を出る時まで、その店主を最低な人間だと思っていた。

だが、その数十分後。

私の考えは完全に変わることになる。

——————————————————————

店を出た直後から、夫の様子がおかしくなった。

顔色が悪い。

汗をかいている。

首元を何度も気にしている。

車の中で私は気付いた。

首筋に赤い発疹が広がっている。

胸元にも。

腕にも。

私は慌てた。

「病院行こう」

夫は最初、

「大丈夫」

と言っていた。

だが明らかに大丈夫ではなかった。

私たちはそのまま救急外来へ向かった。

待合室で私は落ち着かなかった。

スマホを握りながら何度も夫の顔を見る。

もし重い病気だったら。

もし入院になったら。

そんなことばかり考えていた。

夫は苦しそうに椅子へ座っていた。

結婚してから何年も一緒に暮らしてきた。

喧嘩もした。

嫌になることもあった。

それでも家族だった。

だから本気で心配していた。

しかし。

診察室で医師から告げられた言葉は想像を超えていた。

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「一般的な皮膚炎ではありません」

医師はカルテを見ながら続けた。

「性感染症による症状の可能性があります」

その瞬間だった。

私の頭が真っ白になった。

耳鳴りがした。

私はゆっくり夫を見た。

夫は私の目を見なかった。

ただ俯いていた。

その瞬間。

全部理解した。

ああ。

この人、やったんだ。

外で。

しかも私には何も言わずに。

感染の可能性がある状態で。

同じ家で生活して。

同じベッドで寝て。

何もなかったような顔をして。

私の全身から血の気が引いた。

昼間の店主の顔が頭に浮かんだ。

私はあの人を冷たい人だと思った。

思いやりのない人だと思った。

でも違った。

店主は店を守ろうとしていた。

従業員を守ろうとしていた。

生活を守ろうとしていた。

嫌われても。

文句を言われても。

潰れないためにルールを作っていた。

一方で夫はどうだった。

私に優しい顔をしていた。

家族を大事にしているふりをしていた。

でも本当に守っていたのは自分だけだった。

自分が責められないこと。

自分の秘密がバレないこと。

それだけだった。

どちらが本当に身勝手なのか。

比べるまでもなかった。

診察室を出たあと。

私は夫に言った。

「今日から別室ね」

夫は小さく言った。

「ごめん……」

その言葉が一番腹立たしかった。

ごめん?

何に対して?

浮気したこと?

感染したこと?

それとも私を危険に巻き込んだこと?

夫は何も答えられなかった。

私は家に帰るとタオルを全部交換した。

歯ブラシも。

シーツも。

枕カバーも。

翌朝には自分の検査予約を入れた。

そして数日後、夫を座らせた。

録音も回した。

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いつからか。

相手は誰か。

何回会ったのか。

全部話させた。

証拠も残した。

通院記録も保存した。

もう私は信じる側ではない。

確認する側になると決めた。

今でも思い出す。

あの日の焼き鳥屋を。

あの時の私は店主を最低な人間だと思っていた。

でも違った。

本当に怖いのは最初から厳しい人じゃない。

本当に怖いのは、

信頼される立場にいながら、

平然と裏切れる人間だ。

店主は嫌われながらも誰かを守っていた。

夫は愛されながら私を傷つけていた。

あの日、私は二人の男を見た。

そして知った。

人は見た目では分からない。

入口の張り紙より恐ろしいものがある。

それは――

同じベッドで眠っていた人間の嘘だった。

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