「明日の朝まで反省して待っててね^^」
私はそう書いた紙をフロントガラスに挟み、自宅へ戻った。
もちろん嫌がらせではない。
これは三回目だったからだ。
私が毎月料金を支払って借りている契約駐車場。その8番区画に、また同じ白いセダンが停まっていた。
最初は勘違いだと思った。
だから丁寧に張り紙をした。
「契約者がいますので移動をお願いします」
しかし数日後、また停まっていた。
今度は管理会社に連絡した。
管理会社からも注意してもらった。
それで終わると思っていた。
だが甘かった。
その男はまるで自分の駐車場であるかのように、何度も私の区画を使い続けたのだ。
そしてその日。
仕事を終えて帰宅した私は、また白いセダンを見つけた。
さすがに頭にきた。
周囲の空き区画を見れば、停められる場所はいくつもある。
それなのに毎回私の場所だけを使う。
「少しだけだから」
そんな感覚だったのだろう。
しかし少しだから許されるわけではない。
私は自分の車を横向きに停め、そのセダンが出られない状態にした。
そして例の紙を挟んで帰宅したのだ。
夜の九時を過ぎた頃だった。
知らない番号から電話がかかってきた。
無視した。
また鳴った。
さらに鳴った。
十回。
二十回。
三十回。
スマホは震え続けていた。
その後はショートメッセージまで届いた。
「車をどけてください」
「急いでいるんです」
「困るんですけど」
私は画面を見ながら思わず笑ってしまった。
困る?
今まで私が何度困ったと思っているんだ。
翌朝早く出勤する日もあった。
疲れて帰宅した日もあった。
そのたびに勝手に車を停められていたのは誰だったのか。
ようやく自分のやったことを理解したらしい。
だが騒ぎはここで終わらなかった。
夜十一時頃になると、駐車場が妙に騒がしくなった。
窓から覗くと、白いセダンの持ち主らしき男がスマホ片手に大声を上げていた。
隣には女性もいる。
どうやら彼女らしい。
男は私の車を見て怒鳴っている。
しかし私に謝罪する気配は一切ない。
しばらくするとパトカーまでやって来た。
まさか警察を呼んだのだ。
私は契約書を持って下へ降りた。
警察官は双方の話を聞き始めた。
男は真っ先に言った。
「この車のせいで出られないんです!」
だが警察官は落ち着いた様子で尋ねた。
「この区画はどなたの契約ですか?」
私は契約書を見せた。
続いて管理会社の担当者も到着した。
担当者は開口一番こう言った。
「この車の件は以前から問題になっています」
そして監視カメラの記録も確認された。
映像には、その男が何度も私の区画へ停める様子がしっかり映っていた。
警察官は男に向かって言った。
「まず無断駐車について説明してください」
さっきまで威勢よく怒鳴っていた男は急に黙り込んだ。
さらに管理会社が続ける。
「二回注意していますよね?」
男の顔色が変わった。
彼女も気まずそうに下を向いている。
しばらくして男は小さな声で言った。
「そんな大事になるとは思わなくて……」
私は思わず呆れてしまった。
人の契約区画を何度も使っておいて、大事になると思わなかったとは。
どれだけ都合のいい考え方なのだろう。
結局、その場で正式に謝罪することになった。
管理会社からも厳重注意。
次に同じことをした場合は契約解除も検討すると告げられた。
男は何度も頭を下げていた。
あれほど強気だった姿はもうどこにもなかった。
それから数か月。
あの白いセダンを見かけることは一度もない。
今でも時々あの日のことを思い出す。
ルールというものは、誰かを縛るためにあるのではない。
お互いが気持ちよく暮らすために存在する。
それを無視し続けた結果が、あの日だったのだろう。
だから私は今でも思う。
あの張り紙は間違っていなかったと。
「明日の朝まで反省して待っててね^^」
あの一文が、彼にとって一番高い授業料だったのかもしれない。
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