「うるせぇな、黙ってろよ」
車内に、その声が響いた瞬間。
空気が一気に凍った。
夜の電車だった。
中学生くらいの男の子が、
2人席をほぼ1人で占領していた。
しかも、靴のまま向かい側の座席に足を乗せている。
人が座る場所を、
まるで自分の家のソファみたいに踏みつけながら、
イヤホンをしてスマホを見ていた。
混んでいる車内。
立っている人もいる。
それでも彼は足をどかさない。
見かねたサラリーマンの男性が、
小さな声で言った。
「君、そこ人が座る場所だから…」
すると少年は、
露骨に舌打ちした。
「あ?」
低い声。
「関係ねぇだろ」
その顔が、
あまりにも“慣れてる顔”で、
私は少し怖くなった。
周囲も一気に静かになった。
誰ももう注意しない。
関わったら危ない。
そんな空気だった。
私は少し離れた場所に立っていたけれど、
そのやり取りが気になって、
思わず顔を見た。
その瞬間だった。
……え?
見覚えがあった。
短く刈った髪。
目元。
座り方。
でも、まさかと思った。
私は少し近づいて、
もう一度顔を見る。
そして気づいた。
昔、
私が小学校で教えていた子だった。
小学生の頃の彼は、
本当に大人しい子だった。
授業中も静かで、
誰より字が綺麗だった。
コンクールで賞を取った時、
照れながら
「先生のおかげです」
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