指定席20A。
チケットには、たしかにそう書いてあった。
窓側。
コンセントも近い。
到着まで約2時間半。
私はそのつもりで、飲み物まで買ってから車内に入った。
ところが、自分の席の前に立った瞬間、足が止まった。
「あ、これ……無理かもしれない」
声には出さなかった。
でも、心の中では完全にそう思っていた。
隣の席の人が、かなりこちら側まで寄っていた。
肘掛けは見えている。
でも、肘掛けが“境界線”として機能していない。
私の20Aは、たしかに存在しているのに、座れる空間だけが消えていた。
一瞬、迷った。
このまま無理やり座るか。
通路に戻るか。
車掌さんに相談するか。
でも、変に気を使ってしまう自分もいた。
相手も好きでそうしているわけじゃないかもしれない。
私が言えば、相手を傷つけることになるかもしれない。
周りから「感じ悪い人」と思われるかもしれない。
そんなことを考えているうちに、後ろから乗客がどんどん来る。
通路で立ち止まっている私のほうが、むしろ邪魔になっていた。
仕方なく、私は体を斜めにして、どうにか20Aに座った。
いや、座ったというより、差し込まれた。
肩は窓側に逃がす。
腕は膝の上。
スマホを見る角度すら限られる。
普通に座っているはずなのに、なぜか全身がずっと緊張している。
新幹線って、本来は少し休める場所だと思っていた。
窓の外を見たり。
駅弁を食べたり。
軽く目を閉じたり。
でもその時の私は、景色どころではなかった。
少しでも姿勢を変えたら、隣に当たる。
飲み物を取ろうとしても、腕を上げられない。
テーブルを出そうとしても、体の前に余白がない。
「これ、指定席って何なんだろう」
そんな言葉が、頭の中に何度も浮かんだ。
お金を払った。
席も予約した。
窓側を選んだ。
なのに、実際には自分の席を普通に使えない。
もちろん、隣の人を責めたいわけじゃない。
人にはそれぞれ事情がある。
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