経理から呼び出された時点で、嫌な予感はしていた。
月末の精算。
領収書をまとめ、交通費の欄に貼り、いつものように提出した。
ガソリン代。
駐車場代。
高速代。
どれも仕事で使ったものだ。
特に変なものは入れていない。
そう思っていた。
ところが、経理の席に行くと、担当の人が一枚のレシートをつまんでいた。
眉間にしわ。
机の上には、私の精算書。
そして、その問題のレシート。
上の方に大きく書いてある文字。
「EneJet」
その下に、さらに大きく。
「ドトールコーヒー」
経理さんは、その文字を指でトントンと叩いた。
「これ、交通費で出してますけど」
「はい」
「ドトールで飲んだレギュラー珈琲ですよね?」
私は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
レギュラー珈琲。
頭の中に、紙カップに入ったホットコーヒーが浮かんだ。
でも、私が提出したのはガソリンの領収書だ。
私は恐る恐る聞き返した。
「え、コーヒー?」
経理さんは真面目な顔で続けた。
「飲食代は交通費では落とせません。しかもレギュラーって書いてありますし」
私はレシートを見た。
たしかに、書いてある。
レギュラー。
でも、その横にはしっかり数字もある。
四・九九リットル。
単価百六十一円。
合計八百三円。
私は深呼吸した。
「これ、ガソリンです」
「え?」
「レギュラーガソリンです」
経理さんの目が、レシートの下の方へ移動した。
そこで初めて、彼女は「4.99L」という文字を見つけたらしい。
数秒、沈黙が流れた。
私はその間に、必死で笑いをこらえていた。
だいたい、レギュラー珈琲を四・九九リットルも飲めるか。
水でもきつい。
コーヒーならもう、胃どころか人生が震える。
しかも八百三円。
もしドトールで五リットル近いコーヒーが八百三円なら、それはそれで会社に報告すべき激安案件である。
経理さんは少し頬を赤くした。
「でも、上にドトールコーヒーって……」
「ガソリンスタンドに併設されてる店舗名です」
「なるほど……」
なるほど、ではある。
気持ちは分かる。
車に乗らない人から見たら、「ドトールコーヒー」「レギュラー」と並んでいたら、そりゃ飲み物に見えるかもしれない。
しかも、レシートの一番目立つところに店名として出ている。
その下に小さくレギュラー。
金額八百三円。
確かに、読み方によっては「ドトールでレギュラーコーヒーを買った人」だ。
ただし、量が狂っている。
私はそこを指さした。
「ここ、リットルです」
経理さんは、もう一度そこを見た。
そして、ついに小さく笑った。
「本当ですね。四・九九リットル……」
「はい。そんなに飲んだら出張どころじゃないです」
そこで、ようやく空気がゆるんだ。
隣の席の人も聞こえていたのか、肩を震わせている。
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