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「台風だから弁償義務なしで終わると思うな」隣の店の看板が飛んできて車が凹んだ私が、壊れた金具まで撮って保険会社に“管理不足”を確認させた話
2026/06/15

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台風の日だった。

朝から風の音が変だった。

窓ガラスが小刻みに震え、店の前ののぼりは、もう旗というより白旗みたいに暴れていた。

雨は横から降っていた。

傘なんて意味がない。

人通りもほとんどない。

私は店の中で、外を見ながら思っていた。

「今日はもう、何も起きないでくれ」

そういう日に限って、ちゃんと起きる。

昼過ぎ。

外から、ものすごい音がした。

バンッ。

金属が地面に叩きつけられたような音。

続いて、ガリッという嫌な音。

私は反射的に入口へ走った。

自動ドアの向こうで、黒い看板らしきものが、風に煽られて道路に倒れていた。

よく見ると、隣の店の看板だった。

根元から壊れたのか、パネル部分が外れたのか、とにかく原形をとどめていない。

そして、そのすぐ横に私の車。

胸がざわっとした。

近づいて、嫌な予感は確信に変わった。

車体がへこんでいた。

風で飛んできた看板が、うちの車にぶつかっていた。

私はしばらく、雨の中で固まった。

台風。

隣の店の看板。

私の車。

この三つが、最悪の形でつながっていた。

「いや、なんでうちなん……」

声が出た。

もちろん、看板に悪意はない。

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風にも悪意はない。

でも、へこんだ車を見ると、人間はどうしても誰かに文句を言いたくなる。

私はすぐ写真を撮った。

倒れた看板。

車の傷。

位置関係。

雨でスマホの画面が濡れる。

風で髪が顔に張りつく。

それでも撮った。

こういう時、感情より証拠だ。

その後、隣の店の人にも状況を伝えた。

相手も驚いていた。

「すみません、大丈夫ですか?」

その言葉はあった。

でも、問題はそこからだった。

保険会社に連絡し、事情を説明する。

こちらは当然、隣の店側が弁償してくれるものだと思っていた。

だって、隣の店の看板だ。

それが壊れて飛んできた。

うちの車がへこんだ。

原因と結果が、あまりにも分かりやすい。

ところが、返ってきた説明は違った。

台風のような自然災害が原因の場合、店側に明確な管理上の落ち度が認められなければ、弁償義務が発生しないことがある。

だから、基本的にはこちらの車両保険で修理する形になる。

私は一瞬、言葉を失った。

「え、こっちの保険で?」

思わず聞き返した。

隣の看板が飛んできて、うちの車がへこんだ。

なのに、うちの保険で直す。

その説明を頭の中で何度も並べた。

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並べるほど、理不尽に見える。

いや、見えるというか、かなり理不尽に感じた。

私が看板を飛ばしたわけではない。

私が台風を呼んだわけでもない。

車をそこに停めていただけだ。

なのに、修理の手続きも、保険の相談も、こちら。

なんなら保険を使えば等級のことも気になる。

踏んだり蹴ったり。

いや、今回は飛んできたりへこんだりだ。

もちろん、説明は分かる。

台風は不可抗力。

店側がきちんと管理していたなら、責任を問うのは難しい。

法的には、そういう考え方になるのだろう。

でも、感情が追いつかない。

人間の心は、保険約款ほど冷静にできていない。

へこんだ車を目の前にして、

「なるほど、自然災害なら仕方ないですね」

とすぐ言えるほど、私は悟っていない。

隣の店の人も悪気があったわけではない。

それも分かる。

台風で看板が壊れるなんて、相手にとっても困る話だ。

でも、こちらの車にぶつかった事実は消えない。

「すみません」と言われても、へこみは戻らない。

雨上がりにもう一度車を見た。

へこんだ部分が、妙に目立つ。

昨日まで普通だった場所に、台風の置き土産がある。

しかも、隣の店の看板という名札つき。

私は苦笑いした。

看板は店を宣伝するためのものだと思っていた。

まさか、うちの車に体当たりで存在感を示してくるとは思わなかった。

宣伝効果、物理的すぎる。

その日はずっとモヤモヤしていた。

「普通なんです」と説明されるたびに、心の中で小さく反論した。

普通って何だ。

こういう時の普通は、だいたいやられた側には優しくない。

制度としては普通。

保険処理としては普通。

でも、車をへこまされた側の気持ちは、全然普通ではない。

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それでも、怒鳴っても看板は元に戻らない。

店の人を責め続けても、台風は反省しない。

結局、私は自分の保険会社と話を進めることにした。

悔しい。

ものすごく悔しい。

でも、ここで感情だけで動くと、余計に疲れる。

写真を残し、状況を整理し、必要な手続きを進める。

それしかない。

今回、学んだことがある。

台風の日は、風だけが怖いんじゃない。

隣の店の看板も飛んでくる。

そして、飛んできたあとに待っているのは、さらに面倒な保険の話だ。

自然災害は、物を壊すだけではない。

人の納得感まで、きれいにへし折っていく。

車のへこみは直せる。

たぶん修理すれば、見た目は元に戻る。

でも、あの説明を聞いた瞬間の、

「え、こっちが?」

という気持ちは、なかなか戻らない。

次の台風の日は、車をどこに停めるか本気で考える。

できれば、看板から遠い場所。

風からも遠い場所。

そして、理不尽からも遠い場所。

そんな駐車場があるなら、ぜひ教えてほしい。

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