朝のシフトに入った瞬間、嫌な予感はしていた。
店内はいつも通りだった。
レジ横ではコーヒーマシンが動き、揚げ物ケースにはチキンが並び、通勤前のお客様が次々と入ってくる。
コンビニの朝は忙しい。
レジ。
品出し。
宅配便。
公共料金。
コピー機の質問。
全部が同時に来る。
それでも、私はいつも通り動いていた。
問題は、トイレだった。
スタッフの一人が、青ざめた顔でバックヤードに戻ってきた。
「店長……ちょっと来てください」
その言い方で、もう普通の汚れではないと分かった。
紙が散らかっているとか、床が濡れているとか、そういうレベルならスタッフはあんな顔をしない。
私は手袋を持って、トイレへ向かった。
ドアを開けた瞬間、空気が止まった。
そして次の瞬間、怒りより先に、脳が理解を拒否した。
小便器に、大をされていた。
一瞬、意味が分からなかった。
いや、言葉としては分かる。
でも、現実として受け入れたくなかった。
なぜそこに。
なぜ小便器に。
個室があるのに。
便器があるのに。
人間の選択肢として、なぜその答えになる。
私はしばらく立ち尽くした。
横にいたスタッフは、もう泣きそうな顔をしていた。
そりゃそうだ。
これを片づけるのは、店員だ。
やった本人は帰る。
後始末は店。
臭いも店。
苦情も店。
清掃代も店。
精神的ダメージも店。
コンビニは便利な場所だ。
でも、何でも受け止める場所ではない。
トイレレンタル業ではない。
公共トイレでもない。
善意で貸しているだけだ。
それを、ここまで踏みにじられるとは思わなかった。
清掃業者に連絡した。
状況を説明するだけで、こちらの心が削れた。
スタッフには触らせたくなかった。
あれを見た時点で、もう十分すぎるほど被害者だった。
もちろん、その間も店は回さなければならない。
レジにはお客様が来る。
「トイレ借りられますか?」
聞かれる。
私は息を整えて答えた。
「現在、使用できません」
すると、たまに不満そうな顔をされる。
「え、なんで?」
「ちょっとだけなんだけど」
「コンビニなのに貸せないの?」
その言葉を聞くたびに、喉元まで出かかった。
貸せない理由を、全部見せましょうか。
でも、そんなことを言えるわけがない。
普通のお客様に罪はない。
本当に困っている人もいる。
だから余計に腹が立つ。
一人の非常識が、まともな人全員の便利を奪う。
しかも、その怒りの矛先は店に向く。
やった本人ではなく、断るスタッフが責められる。
これが一番しんどい。
その日の夕方、店長として私は決めた。
トイレは無期限で利用停止。
関係者以外、全面禁止。
そして、貼り紙を書くことにした。
きれいな言葉だけでは伝わらない。
遠回しな注意では、また同じことが起きる。
だから、はっきり書いた。
「小便器に大をされたお客様へ」
この一文を書いた時、自分でも思った。
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