国道五十一号を走っていた。
昼前のことだった。
空は青い。
日差しはやたら強い。
フロントガラスの向こうで、アスファルトがじりじり光っていた。
私はエアコンを少し強めながら、いつもの道を進んでいた。
トラック。
軽バン。
営業車。
家族連れのミニバン。
道路はそこそこ混んでいたが、動いてはいた。
その時までは。
突然、前の車が止まった。
ブレーキランプが赤く光る。
そのさらに前も止まる。
そのまた前も止まる。
私は反射的にブレーキを踏んだ。
「事故か?」
最初はそう思った。
でも、サイレンは聞こえない。
煙も見えない。
誰かが倒れている様子もない。
ただ、車列だけがじわじわ詰まっていく。
五分。
十分。
十五分。
一向に進まない。
窓の外では、反対車線の車も妙な動きをしていた。
こっちも向こうも、完全に流れが死んでいる。
国道五十一号。
普段から混む道ではある。
でも、これは違う。
渋滞ではない。
封鎖だ。
前方にオレンジ色のカラーコーンが見えた。
道路の中央に置かれている。
その奥に、白い車。
一台の白いセダンが、変な位置で止まっていた。
斜めというか。
真ん中というか。
「そこ、道路ですよね?」
思わず声が出た。
車は車線の流れを完全に塞ぐように止まっていた。
前にはコーン。
横にも車。
後ろには長い長い車列。
状況を見た瞬間、怒りより先に呆れが来た。
いや、何をどうしたらそこで止まるのか。
休憩所ではない。
撮影スポットでもない。
五十一号のど真ん中で、堂々と主役顔をするな。
もちろん、故障かもしれない。
体調不良かもしれない。
何か避けられない事情があったのかもしれない。
そこは分からない。
分からないから、最初は黙っていた。
でも、時間が経てば経つほど、周囲の空気が変わっていく。
後ろの車からはため息が漏れる。
トラックの運転手は腕を組んで前を見ている。
隣の車の人はスマホで迂回路を探している。
私は時計を見た。
予定の時間が、静かに崩れていく。
こういう時、人はだんだん悟る。
「あ、今日はもうダメな日だ」
道路は生活の血管みたいなものだ。
一本塞がるだけで、みんなの予定が詰まる。
仕事に向かう人。
荷物を運ぶ人。
病院へ行く人。
約束に急ぐ人。
それぞれに理由がある。
なのに、その全部が、一台の車の前で停止する。
たった一台。
でも、影響は大きい。
私は前方を見つめながら、頭の中で勝手に推理を始めた。
なぜあそこで止まったのか。
故障なら、もっと端に寄せられなかったのか。
事故なら、相手はどこにいるのか。
運転手は無事なのか。
警察は来ているのか。
コーンが置かれているということは、誰かがすでに対応している。
つまり、これはもう一時停止ではなく、通行止め案件だ。
「これのせいで五十一号止まってるのか……」
声に出したら、余計に腹が立った。
車内の空気が重い。
エアコンの音だけがやけに大きい。
前の車も動かない。
後ろも詰まっている。
逃げ場なし。
完全に道路上の待合室である。
しかも、飲み物も雑誌もない。
あるのは焦りと日差しだけ。
しばらくして、少しずつ誘導が始まった。
車列がゆっくり動く。
まるで寝起きの蛇みたいに、のろのろと前へ進む。
問題の白い車の近くを通る時、私は思わず見てしまった。
きれいな車だった。
だから余計にシュールだった。
ピカピカの白い車が、国道の真ん中で交通の流れを止めている。
まるで高級車の展示会。
ただし会場は五十一号。
来場者は怒れるドライバーたち。
入場料は時間。
私はハンドルを握りながら、心の中でつぶやいた。
頼むから、車は道路を走ってくれ。
道路の真ん中でイベントを開催しないでくれ。
ようやく抜けたあとも、しばらくイライラは残った。
予定には遅れた。
電話も入れた。
謝るのは私。
でも、原因は私ではない。
この理不尽さが一番しんどい。
渋滞に巻き込まれた人たちは、みんな同じだと思う。
誰も悪くないのに、全員が少しずつ損をする。
ただ一台のトラブルで。
もちろん、運転には何があるか分からない。
自分もいつか迷惑をかける側になるかもしれない。
だから、必要以上に責めたいわけではない。
でも、こういう場面を見ると、改めて思う。
道路での一つの判断は、自分だけの問題では終わらない。
止め方。
寄せ方。
連絡の速さ。
三角表示板。
ハザード。
それだけで、後ろの何十台、何百台の時間が変わる。
五十一号を止める影響力なんて、普通に生きていたらなかなか持てない。
持たなくていい。
持たないでほしい。
その日の予定はぐちゃぐちゃになった。
でも、ひとつだけ学んだ。
国道は広いようで狭い。
一台が変な場所で止まると、あっという間に全員が巻き込まれる。
今日の主役は白い車だった。
ただし、拍手はない。
あるのはクラクション寸前の沈黙と、全ドライバーの心の中の同じ言葉。
「頼むから、そこだけはやめてくれ」