みんな、聞いてほしい。
私はただ、メルカリで服を買っただけだった。
欲しかった服が、ちょうど良い値段で出ていた。
写真もきれい。
説明文も普通。
「目立った汚れなし」
「簡易包装で発送します」
そう書いてあった。
私は迷わず購入した。
数日後、発送通知が来た。
ここまでは順調だった。
むしろ楽しみにしていた。
仕事から帰って、ポストを確認する。
そこに、少し潰れた茶色い紙袋が入っていた。
最初は、何かのチラシかと思った。
でも、よく見ると配送ラベルが貼ってある。
私の名前。
私の住所。
つまり、これが荷物だった。
私はその場で固まった。
袋の端に、見覚えのある赤と黄色。
あのマーク。
マクドナルド。
いやいやいや。
私は服を買った。
ポテトは買っていない。
ビッグマックも頼んでいない。
なのに、目の前にあるのは完全にマックの紙袋だった。
しかも、ただの新品っぽい袋ではない。
使った形跡がある。
折れ目。
油染み。
うっすら漂う、あの独特の匂い。
ポテト。
ナゲット。
揚げ物。
青春と罪悪感の香り。
私は玄関で袋を持ったまま、しばらく動けなかった。
「え、これ開けて大丈夫なやつ?」
思わず声が出た。
恐る恐る部屋へ持ち込み、テーブルの上に置いた。
袋を開ける前から、もう匂う。
完全にマック。
新品の服が届くワクワクではない。
これはテイクアウトを開ける時の空気だ。
でも中身は服のはず。
私は深呼吸をして、封を開けた。
そして、出てきた。
買った服。
ちゃんと入っていた。
商品自体は、たぶん合っている。
ただし、匂いがついていた。
マックの匂いが。
服から、ほんのりポテトがする。
いや、ほんのりではない。
そこそこ主張している。
「私、揚げ物と同居してました」
そんな顔で服が出てきた。
私は一度、服をテーブルに置いた。
そして、もう一度紙袋を見た。
油でギトギト。
そこにサラバパックの配送ラベル。
なんでこれを使った。
家にこれしかなかったのか。
いや、あったとしても選ぶか?
服を包む袋として、使用済みのマック紙袋を。
せめてショップ袋。
せめて紙袋。
せめて無地の袋。
なぜ、マック。
しかも油経験済み。
私はスマホを取り出し、取引画面を開いた。
出品者にメッセージを送ろうとして、指が止まった。
怒りすぎて、逆に文章がまとまらない。
「商品がマックの紙袋に入って届きました」
これだけでもう意味が分からない。
「服にマックの匂いがついています」
さらに意味が分からない。
クレームなのに、文章だけ見ると少し面白い。
だから余計に腹が立つ。
こっちは笑い話にしたいわけではない。
普通に受け取りたかっただけなのだ。
メルカリで中古品を買う以上、多少の簡易包装は覚悟している。
リサイクル資材を使うのも分かる。
ショップの袋を再利用するのも全然いい。
でも、食べ物の油がついた袋は違う。
服だ。
布だ。
匂いを吸う。
油も移る。
「梱包材」と「ゴミになる寸前の紙袋」は別物である。
私は服を鼻から少し離して見つめた。
デザインは可愛い。
だから余計に悲しい。
せっかく届いたのに、最初にやることが試着ではなく消臭対策。
洗濯するか。
陰干しするか。
クリーニングに出すか。
まさかメルカリで買った服に対して、まず「ポテト臭を抜く作業」が発生するとは思わなかった。
出品者は悪気がなかったのかもしれない。
家にあった袋を使っただけかもしれない。
節約のつもりだったのかもしれない。
でも、その節約でこちらの気持ちはだいぶ削られた。
相手にとっては「使える袋」。
こちらにとっては「油ギトギトの罠」。
この温度差がすごい。
私は結局、写真を撮ってメッセージを送った。
できるだけ冷静に。
「商品は届きましたが、使用済みと思われるマクドナルドの紙袋に直接入っており、油の匂いが服に移っています。衣類なので、食品の袋での発送は避けていただきたかったです」
送信。
少しだけ手が震えた。
怒りと、笑いと、やるせなさで。
その後、服はすぐ洗った。
洗濯機の中で回る服を見ながら、私は思った。
この服、届いて初日から試練が多すぎる。
普通は「かわいい服買えた」で終わるはずだった。
なのに私の今日の記憶は、
「メルカリで買った服がマック臭で届いた」
これ一色だ。
いや、色ではない。
匂いだ。
今後、メルカリで買う時は商品説明だけでなく、梱包方法まで確認したくなった。
「発送は使用済みファストフード袋ではありませんか?」
そんな質問をする日が来るとは思わなかった。
でも、今回で学んだ。
中古品の世界は奥が深い。
服だけでなく、前世の匂いまで届くことがある。
ただ一つだけ言わせてほしい。
マックは好きだ。
ポテトも好きだ。
でも、服にはついてこなくていい。