関空快速。
夜20時過ぎ。
車内は、ほぼ満席。
立ってる人も多い。
その中で——
奥の4人席だけが、おかしかった。
スーツケース、2個。
ドン、と横に置かれてる。
完全に席を潰してる。
足元にもバッグ。
そして中央の女。
スマホで通話中。
声、でかい。
中国語。
向かいにも、もう一人。
笑いながらスマホ。
——4席、2人で占領。
私は立ち止まった。
(いや、さすがに無理だろ)
でも誰も言わない。
こういう時、誰も言わない。
だから、余計にムカつく。
私は一歩、近づいた。
「すみません」
女が一瞬こっちを見る。
「ここ、座っていいですか?」
……無視。
通話、続行。
(聞こえてるだろ)
もう一回。
「荷物、少し動かしてもらえますか?」
女、ため息。
そして一言。
「日本語、わからない。」
そのまま通話。
——出た。
完全に拒否。
その瞬間、ちょっと笑いそうになった。
(はいはい)
私はスマホを出した。
そして、日本語やめた。
「Can you move your luggage?」
女の動き、止まる。
通話も、止まる。
さっきまでの顔じゃない。
完全に、“聞こえてる顔”。
私は続ける。
「This is a seat. Not for luggage.」
一瞬、沈黙。
周りも気づき始める。
(——ここで終わらせるか?)
いや、まだ足りない。
その時だった。
後ろから声。
「それ、迷惑ですよ。」
低い声。
サラリーマン。
さらに横から。
「座れない人、いますよね」
もう一人。
「ちょっとひどいですね」
——空気、変わった。
一気に。
さっきまで“無関心”だったのに。
今は、全部“視線”。
女、周りを見る。
焦ってる。
無言でスーツケース掴む。
ガラッ。
引く。
向かいの女も慌ててバッグ持つ。
……席、空いた。
たったそれだけで。
私は軽く言った。
「ありがとうございます」
座る。
その瞬間——
通話、完全終了。
さっきまでの余裕、ゼロ。
小声で何か言ってる。
でも、もう聞こえない。
隣の男が、小さく言った。
「助かりました」
私は笑った。
「いや、座りたかっただけです」
電車はそのまま進む。
さっきまでの空気が嘘みたいに静か。
窓の外、夜。
(最初からこうすればいいのに)
でも、分かってる。
誰かが言わないと、何も変わらない。
そして、もう一つ。
——一人が言えば、空気は一気に動く。
さっきの4席は、
もう、ちゃんと4人分だった。
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