「え、これ……ホテルのやつじゃない?」
駅のホームでカバンを開けた瞬間、私はその場で固まりました。
中に入っていたのは、スマホの充電器でも、化粧ポーチでもなく、
ホテルの目覚まし時計。
いやいやいや。
なんで。
なんで私のカバンにホテルの目覚まし時計が入ってるの。
一瞬、頭が真っ白になりました。
前日の夜、枕元に置いていたのは覚えています。
朝、アラームを止めたのも覚えています。
荷物をまとめる時に、なぜか自分の物みたいな顔でカバンに入れてしまったんだと思います。
本当に意味が分からない。
私はいつも、ホテルを出る時はかなり気をつけるタイプです。
ゴミはまとめる。
使ったタオルも一か所に寄せる。
忘れ物がないか、ベッドの下まで確認する。
洗面台もできるだけきれいにして出る。
清掃スタッフさんに少しでも嫌な思いをさせたくないからです。
なのに今回。
よりによってホテルの備品を持ってきてしまいました。
しかも目覚まし時計。
小さなアメニティならまだしも、部屋に置いてある時計です。
清掃スタッフさんが部屋に入って、
「あれ、時計がない」
って探している姿が頭に浮かびました。
フロントに確認しているかもしれない。
備品チェックで困っているかもしれない。
私の名前を見て、連絡しようか迷っているかもしれない。
そう思った瞬間、恥ずかしさより先に、
「すぐ返さなきゃ」
と思いました。
そのまま改札を出て、近くの郵便局を探しました。
まだ朝イチ。
開いたばかりの郵便局に入って、レターパックプラスを買いました。
窓口の方に、
「これ、ホテルに返したくて……」
と言いかけて、自分で言いながらまた恥ずかしくなりました。
でも、ここで変にごまかす方がもっと嫌でした。
私はその場でホテルに電話しました。
「昨日宿泊した者です。申し訳ありません。部屋の目覚まし時計を、間違えて持ち帰ってしまいました」
電話口の方は一瞬だけ間があって、
「目覚まし時計、ですか?」
と確認しました。
そりゃそうです。
普通、ホテルから目覚まし時計を持って帰る人なんて、なかなかいないと思います。
私は早口で説明しました。
「本当にすみません。今、郵便局にいます。すぐ返送します。
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