「昼飯行こうと車に戻ったら、当て逃げされていた。」
さっきまで普通に停めていたはずの車の後ろが、見事にへこんでいた。
紙もない、連絡先もない。完全な当て逃げだった。
警察に通報して調べてもらうと、近くの防犯カメラにそれらしい車が映っている可能性があると言われた。
後日、警察がその家を訪ねると、出てきた年配の男は開口一番こう言った。
「知らん。」
「そんな傷、最初からあったんじゃないのか?」
「年寄りを疑うのか。若いくせに生意気だな。」
でも――逃げた相手が悪かった。
――ここからが本当の話だ。
昼飯を食べに行こうと思って車に向かったのは、その日の昼前だった。
駐車場に戻った瞬間、違和感に気付いた。
自分の車の後ろが、明らかにおかしい。
近づいて見た瞬間、思わず声が出た。
「は?」
バンパーは割れ、フェンダーも大きくへこんでいる。
どう見ても強くぶつけられていた。
周りを見回したが、それらしい車はもういない。
フロントガラスにもメモはない。
連絡先も残されていない。
つまりこれは、完全な当て逃げだった。
すぐ警察に通報した。
警察が来て現場を見ながら言った。
「結構強くぶつけてますね。」
ただ問題は犯人だった。
周りに目撃者はいない。
そのとき警察官が言った。
「近くに防犯カメラがありそうですね。」
駐車場の横にはコンビニがある。
店員に事情を説明し、警察立ち会いのもとで防犯カメラの映像を確認することになった。
そして映像を見た瞬間、全員が言葉を失った。
バックしてくる白い軽自動車。
そして、
ゴンッ。
はっきりと私の車にぶつかった。
車は一度止まった。
運転席から降りてきたのは、年配の男だった。
男は自分の車の後ろを見て、
次に私の車の傷を見た。
完全に気付いている様子だった。
「謝るのか?」
そう思った次の瞬間。
男は周りをキョロキョロ見回し、
何事もなかったかのように車に戻った。
そして――
そのまま走り去った。
ナンバーもはっきり映っていた。
警察はそのナンバーをもとに、後日その家を訪ねた。
そして冒頭のやり取りになる。
男は開口一番、
「知らん。」
続けて、
「そんな傷、最初からあったんじゃないのか?」
さらに、
「年寄りを疑うのか。若いくせに生意気だな。」
完全に開き直っていたらしい。
警察が防犯カメラの映像を見せても、
「覚えてない。」
「そんなもの知らん。」
そして最後にはこう言った。
「どうせ保険だろ。金なんか払わん。」
警察官の表情が変わった。
「このままだと当て逃げとして扱われます。」
「刑事事件になる可能性もありますよ。」
それでも男はしばらく、
「払わん。」
の一点張りだったという。
しかし数日後、状況が変わった。
今度はその男の息子と娘から連絡が来た。
電話口で二人は何度も謝った。
「父が本当に申し訳ありませんでした。」
そして続けて言った。
「修理費はすべてこちらで負担します。」
さらに、
「父の免許も家族で話し合って返納させます。」
とのことだった。
後で聞いた話では、家族の間でかなり厳しく叱られたらしい。
結局、修理費は全額負担となり、車はきちんと修理された。
ただ一つだけ思った。
もしあのとき逃げずに、その場で謝っていれば――
ここまで大きな話にはならなかったはずだ。
人の車にぶつけたなら、
まずやるべきことは一つ。
逃げないこと。
逃げた瞬間、
ただの事故は当て逃げという犯罪になる。
そして運転に自信がなくなっているなら、
大きな事故を起こす前に免許を返納するべきだと、今回強く思った。
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