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近所には、子供好きで優しいおばあちゃんがいる。 ある日、おばあちゃんに呼び止められた。 「甘いイチゴがあるの。一緒に食べましょう?」
2026/06/03

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タイトル

「優しいおばあちゃんの後ろにいたもの」


近所には、子供好きで有名なおばあちゃんがいた。

いつもニコニコしていて、会えば飴をくれたり、学校の話を聞いてくれたりする。

親たちもみんな知っていて、

「何かあったらあのおばあちゃんのところへ行きなさい」

と言うほどだった。

だから僕も、おばあちゃんのことが好きだった。

小学四年生の夏までは。

その日も、学校帰りだった。

蝉の声がうるさいくらい響く午後。

僕が一人で歩いていると、おばあちゃんが道端で手を振った。

「○○ちゃん!」

振り向くと、おばあちゃんは笑顔だった。

「甘いイチゴがあるの。一緒に食べましょう?」

そう言いながら手を差し伸べてきた。

いつもなら喜んでついて行ったと思う。

でも、その日は違った。

僕の視線は、おばあちゃんではなく――

おばあちゃんの後ろにある古い一軒家に向いていた。

その家は空き家だった。

何年も前から誰も住んでいない。

窓ガラスは割れ、

庭は雑草だらけ。

近所でも有名な廃屋だった。

なのに。

二階の窓に、

誰かが立っていた。

真っ黒な人影。

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男か女かも分からない。

ただ異様に細長く、

首だけが不自然に傾いている。

その影は、

窓の向こうからじっと僕を見ていた。

嫌な汗が流れた。

でも次の瞬間、

もっと恐ろしいことに気づいた。

その影が、

おばあちゃんを見ていたのではない。

おばあちゃんの肩越しに、

僕だけを見ていたのだ。

僕は咄嗟に言った。

「ご、ごめんなさい!今日は帰る!」

そして手を振りほどくように走り出した。

後ろからおばあちゃんの声が聞こえた。

「待って!」

でも振り返らなかった。

家まで全力で走った。


その夜。

夕飯の時に母へ話した。

すると母の箸が止まった。

「どこの家?」

説明すると、

母の顔色が変わった。

「そこには近づいちゃ駄目」

珍しく強い口調だった。

理由を聞いても教えてくれない。

ただ、

「あの家だけは見ないで」

と言われた。


数日後。

僕は友達から衝撃の話を聞く。

「あのおばあちゃん、先月亡くなったらしいよ」

最初は冗談だと思った。

だって数日前に会ったばかりだから。

でも本当だった。

回覧板にも載っていた。

近所の人もみんな知っていた。

おばあちゃんは一か月前、

病院で息を引き取っていた。

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頭が真っ白になった。

じゃあ、

あの日、

僕にイチゴを勧めたのは誰だったんだ。


その答えを知ったのは数年後だった。

高校生になったある日、

祖母が酒の席で話してくれた。

あの空き家では昔、

一家心中が起きていた。

最後まで生き残った幼い娘が、

「おばあちゃん助けて」

と泣き続けながら亡くなったという。

そして近所で唯一、

毎日花を供えていたのが、

あのおばあちゃんだった。

祖母は最後にこう言った。

「亡くなる前、おばあちゃんね」

少し黙った。

そして小さく続けた。

「ずっと言ってたのよ」

『あの子が寂しそうだから、迎えに行かなきゃ』


それから二度と、

あの家には近づいていない。

けれど今でも思い出す。

あの日、

おばあちゃんが差し出した手。

そして、

二階の窓からこちらを見ていた黒い影。

もしあの時、

僕があの手を取っていたら――

本当に食べたのは、

イチゴだけだったのだろうか。

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