公共の場って、いつから自分の家になったの?
新幹線で普通にPC開いてただけ。
そしたら前の席の人、何も見ずにそのまま全力で倒してきた。
ノートPC、普通に潰れるかと思った。
だから「ちょっと当たってます」って言っただけなのに、
「寝てるんだから邪魔すんなよ」って。
……は?
完全にそっちが原因なのに、その言い方。
一瞬、もういいやって引こうとしたけど、
やっぱり無理だった。
私はそのまま、上のライトをつけた。
ちょうど顔に当たる位置で。
その瞬間、前の席の男がピクッと動いた。
上のライトがちょうど顔に当たる位置だったらしく、
明らかに眩しそうに眉をしかめている。
しばらくして、ゆっくり振り返ってきた。
「……まぶしいんだけど」
低い声。
でも、さっきと同じ空気だった。
私はそのまま、普通に返した。
「後ろ、使えないので」
それだけ。
男は一瞬黙ったあと、舌打ちした。
「だから寝てんだよ、こっちは」
「わざわざ嫌がらせか?」
……は?
思わず笑いそうになった。
さっきまで、こっちのPC潰しかけてたのはどっちだよ。
でも、もう感情で言い返す気はなかった。
「さっきも言いましたけど、当たってます」
淡々と返す。
男は面倒くさそうに顔を背けた。
でも、座席はそのまま。
全く戻す気はない。
そのまま腕を組んで、目を閉じようとする。
——ああ、そういうタイプか。
周りも、完全に気づいていた。
ちらっと視線が集まる。
でも、誰も何も言わない。
さっきと同じ空気。
私は一瞬だけ考えた。
ここでまた言い合うか。
それとも——
やめた。
そのままスマホを置いて、呼び出しボタンを押した。
小さく「ピンポン」と音が鳴る。
その音で、男がまた目を開けた。
「……は?」
「何してんの」
無視した。
数分後、乗務員が来た。
「どうされましたか?」
私は簡単に説明した。
「前の席がかなり倒れていて、PCが使えない状態です」
「先ほどもお伝えしたんですが、対応いただけなくて」
乗務員は状況を一目見て、すぐ理解したようだった。
軽くうなずいて、前の男に声をかける。
「お客様、後方のお客様へのご配慮をお願いいたします」
その一言だった。
男はすぐに言い返した。
「ちょっとくらい良いだろ」
「寝てるだけだぞ」
でも、さっきと違った。
声に余裕がない。
乗務員は落ち着いたまま繰り返した。
「後方のお客様がご利用できない状態ですので、少しお戻しいただけますか」
周りの空気も、完全に変わっていた。
さっきまで黙っていた人たちが、明らかにこっちを見ている。
逃げ場がない。
男は舌打ちした。
「チッ……」
そして、ゆっくりと座席を戻した。
ほんの少しじゃない。
ちゃんと、スペースができる位置まで。
その動きが、すべてだった。
さっきまでの強気は、もうなかった。
私は何も言わなかった。
ただ、静かにPCを開き直した。
普通に使える。
それだけで十分だった。
乗務員は軽く会釈して、その場を離れた。
その後、男は一度も振り返らなかった。
さっきまであんなに文句を言ってたのに。
車内は、元の静けさに戻っていた。
でも、さっきとは少し違う。
誰も何も言わないけど、
「さっきのはおかしかった」
っていう空気だけが残っていた。
私は小さく息を吐いた。
正直、最初にライトをつけたとき、
やりすぎかもって一瞬思った。
でも結果的に、それでよかった。
もし何も言わなかったら、
たぶんずっとそのままだった。
私は画面を見ながら、ふと思った。
「我慢する必要、なかったな」
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