病院の受付で「10割負担になります」と言われた瞬間、私は一回、本気で聞き間違いだと思った。
いや、聞き間違いであってくれと思った。
でも、受付の人は申し訳なさそうに、もう一度同じことを言った。
「第三者行為になりますので、健康保険はこの場では使えません」
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
え、ちょっと待って。
殴られたの、うちの息子なんですけど。
しかも中3なんですけど。
やったの、格闘技やってる側なんですけど。
なんでこっちが10割払う流れになってるの?
言葉にすると全部おかしい。
でも現実は、受付カウンターの向こうで静かに進んでいた。
私はその日、息子の診断書を取りに来ただけだった。
それだけのつもりだった。
でも、病院に入った瞬間から空気が重かった。
消毒液の匂い。
白い壁。
やけに静かな待合室。
ああいう場所って、それだけで気持ちが削られる。
息子は中学三年生。
受験を控えて、ただでさえ落ち着かない時期だ。
そこにきて、まさかの暴行。
しかも相手は格闘技選手。
ただのケンカじゃない。
少なくとも、そう簡単に「子ども同士のもめごと」で済ませていいような話じゃなかった。
最初に連絡を受けたとき、私は耳を疑った。
「口唇挫傷、耳介挫傷」
診断書に書かれたその文字を見た瞬間、胸の奥がぞわっとした。
口唇。
みぎ耳介。
治療期間は受傷日より3週間程度。
紙の上ではずいぶん事務的だ。
でも、その紙に書かれているのは、うちの息子の顔に残った傷のことだった。
初診日は10月31日。
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