あの日のことは、たぶんしばらく忘れない。
痛かったからじゃない。
もちろん、それもある。
でも本当にきつかったのは、殴られたことよりも、
「こっちが普通に生活していただけなのに、なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ」
という理不尽さのほうだった。
診断名は、頸椎捻挫、左上腕打撲傷。
しかも保険がきかない。
全部、自費。
この紙を見た瞬間、私は痛みとは別の意味で、しばらく動けなかった。
事件が起きたのは、本当に何でもない日だった。
少なくとも、私の中ではそうだった。
仕事が終わって、いつものように移動して、いつものように人の流れの中にいただけ。
少し疲れてはいたけど、特別機嫌が悪かったわけでもない。
早く帰って、シャワーを浴びて、静かに座りたかった。
それだけだった。
でも、そういう“それだけの日”に限って、人生って突然曲がる。
最初は、ただぶつかっただけだったと思う。
いや、正確には、ぶつかりそうになった、くらいかもしれない。
こっちは避けた。
相手は避けなかった。
そのくらいの、小さな接触。
普通なら、「すみません」で終わる。
せいぜい舌打ちされて終わる。
私も最初はそう思っていた。
けれど、その相手は違った。
振り返った瞬間の目が、もうおかしかった。
言葉は全部はわからなかった。
でも、声のトーンと表情だけで十分だった。
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