今日も配送の仕事でタワーマンションに来た。朝の空気は冷たく、コートの袖をきつく握りしめながら、足早にエントランスへ向かう。配達先は最上階。いつものルートなら、カートを押しながらゆっくり歩いても十分間に合うはずだった。
エントランスに着くと、管理人は慣れた手つきで入館手続きを進める。いつも通り、荷物の確認。だが、そのあとに続いた言葉で、思わず足が止まった。
「駐車料金、3,500円です」
え? 今なんて言った?
配送業者として荷物を運ぶだけなのに、駐車場代まで請求されるの?
頭の中で数字がぐるぐる回る。冷たい鉄のドアの向こう、ビル内の豪華なエントランス。絨毯も光沢のある大理石も、今の私にはまるで笑っているように見えた。
私は財布を取り出し、黙って料金を支払った。でも心の中は怒りで燃え上がっていた。
「こんなの、意味わかんない……」
誰に向けるわけでもない独り言。3,500円で、私の心は一気にむかつきで満たされた。
作業を始める前に、ふと考える。荷物を届けるのは私たち配送員の仕事だ。お金を払うべき相手は誰だ? お客様? いや、彼らは何も悪くない。管理会社か、タワーマンションの運営者か。何の権利で、こちらに追加費用を押し付けるのか。
私は無言で荷物をカートに積み、エレベーターへ。上の階に向かう間、頭の中で「これっておかしい」と繰り返す。フロアに着き、配達先のドアベルを鳴らす。受取人が現れ、笑顔で「ありがとうございます」と言う。普段なら「やれやれ」と思う瞬間だが、今日は違う。
帰り道、またエントランスへ。駐車場に向かうと、管理人が待っていた。
「駐車代は……」
いや、もう払った。だけど、怒りが収まらない。
私は立ち止まり、深呼吸をして、目の前の現実をじっと見る。
そして、ふと思いついた。
「この理不尽、SNSで共有してやろう」
スマホを取り出し、撮影開始。駐車チケットと料金表を並べ、短い文章で投稿。
『配送業者なのに3,500円駐車代を取るタワーマンション。意味不明。』
文章を打ち終えると、心の中の怒りが少しずつ、爽快感に変わる。
しばらくして、コメントが飛び交う。
「それはありえない」
「うちのマンションも同じことしてる!」
「写真付きで証拠も完璧」
誰かが笑い、誰かが共感してくれる。現場でのもやもやが、文字にして共有することで、少しずつ力を持ち始める。
「よし、やっぱり声を出すのは大事だ」
3,500円は痛かった。でも、理不尽に黙って従うだけでは、ただの搾取者の思う壺だ。
車に戻ると、私は深く息をつく。空は晴れていた。タワーマンションの窓ガラスに自分の姿が映る。小さく笑う私。
「これで少しはスッキリしたかもな」
そう思いながらハンドルを握る。次にこの管理会社に出くわす時は、同じ理不尽は許さない。今日の怒りは、未来への力になる。