「もういい。全部出す」
そう決めた瞬間、不思議なくらい手の震えが止まった。
妊娠してから、私はずっと自分に言い聞かせていた。
今は大事な時期だから。
私が騒いだらお腹の子に悪いから。
夫も仕事の付き合いがあるんだろうから。
そうやって、何度も飲み込んできた。
でも、限界って本当にある。
結婚する前、彼は私に何度も言っていた。
「もう店には行かない」
「家庭を一番にする」
「不安にさせることはしない」
私はその言葉を信じた。
あの頃の彼は、確かに必死だった。
毎日のように連絡をくれて、会いに来て、私の予定に合わせてくれて、少しでも不安そうな顔をするとすぐに謝ってくれた。
結婚式の日もそうだった。
周りから祝福されて、写真を撮られて、彼は本当に幸せそうに笑っていた。
私も思った。
ああ、この人となら大丈夫かもしれない。
でも、結婚してから少しずつ変わった。
正確に言えば、変わったんじゃない。
隠していたものが、少しずつ見えるようになっただけだった。
夜、スマホを裏返して置く。
通知が鳴ると、妙に早く画面を消す。
出張が増える。
「仕事だから」と言えば、何でも通ると思っている。
最初は見ないふりをした。
問い詰めるのも怖かった。
もし本当に何かあったら。
もし、私が信じていたものが全部違っていたら。
そう思うと、聞けなかった。
でもある日、どうしても違和感が消えなかった。
大阪出張の前日。
夫は妙に機嫌がよかった。
「仕事だから遅くなるかも」
「付き合いもあるし」
「でも心配しないで」
その言い方が、もう答えみたいだった。
私はその夜、彼に送った。
「店に行くのはやめて」
「今だけは本当にやめて」
「私は妊娠中だよ」
返ってきたのは、謝罪ではなかった。
「理解してくれないと仕事に差し支える」
「付き合いだから仕方ない」
「信用してほしい」
信用してほしい。
その言葉を見た瞬間、何かが切れた。
信用って、お願いしてもらうものじゃない。
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