新幹線でポケモンカード大会が始まった瞬間、私は本気で「終わった」と思った。
しかも、私が窓側だ。
逃げ場なし。
退路なし。
膀胱だけが、じわじわと限界に近づいていた。
その日、私はただ静かに移動したかっただけだった。
三列席の窓側。
少しでも落ち着けるようにと思って取った席だった。
スマホでも見て、眠くなったら目を閉じて、駅に着くまで無難に過ごす。
そういう、事件とは無縁の時間のはずだった。
最初は普通だった。
真ん中に男。
通路側にも男。
年齢は二十代後半くらい。
発車前から少し話していたから、知り合いなんだろうなとは思っていた。
でも、まあ、それだけなら別にいい。
問題は発車して少し経ってからだ。
通路側の男がカバンを開けた。
嫌な予感がした。
こういうときの嫌な予感って、なんでこんなに当たるんだろう。
次の瞬間、カードケースが出てきた。
さらに、デッキ。
さらに、何かのマットっぽいもの。
そして真ん中の男が、待ってましたみたいな顔で身を乗り出した。
「じゃ、やる?」
「いいよ」
よくない。
全然よくない。
私は窓のほうを向いたまま、心の中だけで即答した。
ところが、二人は本当に始めた。
テーブルを出して、カードを並べて、切って、置いて、めくって、何やら専門用語みたいなものを小声で交わし始めた。
新幹線で。
隣で。
対戦を。
一瞬、何を見せられているのかわからなかった。
いや、見えているものは明白だ。
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