電話を切ったあと、
手が震えていた。
頭が追いつかない。
(落としたって、どういうこと?)
(なんでそんなに落ち着いてるの?)
急いで仕事を抜けて、病院に向かった。
受付で名前を伝えると、
すぐに案内された。
病室に入って、
娘の顔を見た瞬間——
言葉が出なかった。
鼻の周りに、血の跡。
口元にも少し。
服にも、薄くついている。
(……これが“大丈夫”?)
眠っている。
確かに寝ている。
でも、それが逆に怖かった。
私はそっと名前を呼んだ。
「……大丈夫?」
反応はある。
でも、いつもと違う気がした。
その違和感が、胸の奥に残る。
横にいた保育士が言った。
「今は落ち着いていますので」
——その一言で、何かが引っかかった。
「どういう状況だったんですか?」
保育士は少し言葉を選びながら説明した。
「抱っこしている時に、不注意で…」
その隣で、看護師がうなずいている。
(この人が判断したの?)
私は、はっきり聞いた。
「なぜ救急を呼ばなかったんですか?」
一瞬、空気が止まる。
看護師が答える。
「意識もありましたし、様子を見て…」
——様子見?
私は一歩近づいた。
「3歳ですよ?」
「頭を打って、鼻血が出てるんですよ?」
「それで“様子見”なんですか?」
誰も、すぐに答えなかった。
その沈黙で、分かった。
(判断、間違ってる)
でも、怒鳴らなかった。
代わりに、静かに言った。
「この判断、記録に残ってますよね?」
看護師の表情が変わる。
保育士が慌てて答える。
「はい、残っています」
私は続けた。
「誰が、どう判断したのか」
「全部、確認させてください」
——ここで、やっと“対応”が変わった。
さっきまでの軽さが消える。
明らかに、空気が違う。
そのあと、医師から説明を受けた。
幸い、大きな異常はなかった。
その一言で、
力が抜けた。
でも。
安心と同時に、
別の感情が残った。
(じゃあ、あの対応は何だったの?)
帰宅してから、調べた。
同じようなケース。
頭部打撲、鼻血。
そして、医療関係の知人にも聞いた。
返ってきた答えは、はっきりしていた。
「基本的には救急対応です」
——やっぱり。
私は、
そのやり取りも含めて全部記録した。
そして、投稿した。
園の名前は出していない。
ただ、事実だけを書いた。
すると、コメントが一気に増えた。
「それはありえない」
「看護師の判断がおかしい」
「すぐ救急レベル」
「怖すぎる」
でも一方で、
「結果大丈夫ならいいのでは?」
「過剰反応では?」
という声もあった。
——正直、少し驚いた。
でも、はっきりしている。
“結果が大丈夫だった”ことと、
“判断が正しかったか”は別。
私はその日、決めた。
もう、この保育園には預けない。
どれだけ謝られても、
どれだけ説明されても。
一度崩れた信頼は、戻らない。
守りたかったのは、
“関係”じゃない。
娘だった。
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