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「怒らないので返して」と貼り紙→翌日「もう売ったw」と落書き→私の一言で自転車が戻ってきた話
2026/03/05

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朝、大学へ向かう途中だった。

キャンパスに入って、いつもの駐輪スペースに向かった瞬間、私は思わず足を止めた。

「あれ……?」

昨日まで確かに停めてあったはずの自転車が――ない。

一瞬、場所を間違えたのかと思った。
大学の駐輪場は広いし、急いで停めると場所を勘違いすることもある。

私は周りをぐるっと見て回った。

でも、どこにもない。

昨日の夜、授業が終わったあとここに停めた。
それははっきり覚えている。

胸の奥が、じわっと冷たくなった。

「……盗まれた?」

大学の中とはいえ、自転車の盗難は珍しくない。
友達も何人か被害にあったと言っていた。

でも、まさか自分がやられるとは思っていなかった。

しばらくその場に立ち尽くしたあと、私は深くため息をついた。

警察に行くべきかとも思ったが、
正直、戻ってくる可能性は低いと聞く。

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それでも、何もしないのは悔しかった。

そこで私は、コンビニで紙とペンを買ってきて、
自転車を停めていた場所の近くの壁に一枚の紙を貼った。

そこにこう書いた。

「2月7日の夜、この場所から自転車を持っていった人へ
怒らないので返してください。
戻すときはここで大丈夫です。
※2週間以内に返ってこなければ大学と警察に言います」

書きながら、自分でも少し情けない気持ちになった。

でも、怒鳴るより、こういう書き方のほうが
もしかしたら効くかもしれないと思ったのだ。

紙を貼っていると、通りかかった学生がそれを読んでクスッと笑った。

「優しいな…」

もう一人が言う。

「でもこれ、絶対返ってこないやつ」

その言葉に、胸がチクッとした。

でも私は何も言わず、その場を離れた。

そして翌日。

授業に向かう途中、ふと昨日の張り紙のことを思い出した。

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「まあ…変わってないよな」

そう思いながら近づくと、遠くからでも違和感があった。

紙の下に、何か書き足されている。

嫌な予感がして、足が早くなる。

近づいて見た瞬間、思わず声が出た。

「は?」

そこには、太いペンでこう書かれていた。

「もう売ったw」

一瞬、頭が真っ白になった。

次の瞬間、怒りが一気に込み上げてきた。

「ふざけんな…」

しかも最後の「w」が妙に腹立たしい。

その頃には、周りに学生が集まり始めていた。

「うわ、なにこれ」
「書いたやつ性格悪すぎ」

スマホで写真を撮る人までいる。

私はしばらく紙を見つめた。

普通なら、悔しくて破り捨てるかもしれない。

でも私は破らなかった。

静かにペンを取り出した。

そして、その挑発の下に、もう一行書いた。

「監視カメラ確認しました」

書いた瞬間、周りがざわついた。

「え、カメラあるの?」
「これヤバいやつじゃない?」

本当のところ、カメラがあるかどうかは分からない。

でも、この一言はきっと効く。

私は紙を貼り直し、その場を離れた。

正直、半分はハッタリだった。

それでも、あんなふざけたことを書かれて終わるのは嫌だった。

そしてその日の夜。

用事があって大学の近くを通ったとき、
なんとなく、あの場所が気になった。

街灯の下に、張り紙がまだ見える。

そして――

その前に、見覚えのある影があった。

私は思わず足を止めた。

そこには、私の自転車が戻ってきていた。

昨日と同じ場所に、何事もなかったかのように。

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思わず笑いそうになった。

「マジかよ…」

近づいてみると、張り紙にも変化があった。

例の「もう売ったw」の下に、小さく文字が書き足されている。

「すみません」

その一言だけ。

周りにいた学生がそれを見て吹き出した。

「謝ってるやん」
「ダサすぎる」

誰かが言った。

「監視カメラって書いたの効いたんやろな」

私は何も言わず、自転車のハンドルを握った。

壊れている様子もない。

胸の奥に溜まっていたモヤモヤが、一気に消えていく。

振り返ると、まだ張り紙の前で笑っている学生たちがいた。

誰かが言った。

「これ今年一番おもろい張り紙やな」

私は苦笑しながら、自転車を押してその場を離れた。

後ろから、こんな声が聞こえた。

「でもさ、“w”つけてたやつ、今どんな顔してるんやろな」

その言葉を聞いた瞬間、
私は思わず吹き出してしまった。

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