母が亡くなった。
認知症だった。
最後のほうは、話のつじつまが合わない日も多かったらしい。
私は、母とは長い間、疎遠だった。
理由は一つではない。
積もり積もったものがあった。
家を出てから、必要最低限の連絡しかしなくなった。
親子だからといって、何でも許せるわけではない。
そう自分に言い聞かせて、距離を置いて生きてきた。
葬儀の日。
久しぶりに兄たちと顔を合わせた。
兄は二人いる。
昔から苦手だった。
上から物を言う。
自分たちだけが正しい顔をする。
都合の悪いことは、全部こちらに押しつける。
その性格は、何年たってもまったく変わっていなかった。
焼香の煙が細く上がる中、私はただ静かに立っていた。
悲しいのか、苦しいのか、自分でもよくわからなかった。
母への感情は、簡単な言葉で片づけられるものではなかった。
ただ、これで一つの区切りがついた。
そう思っていた。
ところが、その区切りはとんでもない形で壊された。
葬儀が終わったあと、兄の一人が妙に硬い顔で私を呼び止めた。
「ちょっと話がある」
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