言葉を失った。
朝起きてリビングに入った瞬間、
一歩目で止まった。
テーブルの上が、完全に終わってた。
吸い殻が山みたいに積もってる。
灰皿は溢れて、その周りにも散乱。
食べ終わった骨、油でベタついた容器、
飲みかけのグラス、空き缶。
全部、そのまま。
昨日の夜までは普通だったのに、
一晩でここまで荒れる?
でも考えるまでもなかった。
――全部、旦那だ。
夜中に一人で飲んで、
そのまま寝落ちしたんだろう。
正直、イラッとはした。
でも、それ以上に思ったのは
「このまま放置は無理」という現実だった。
臭いもするし、ベタつきもひどい。
仕方なく、片付け始めた。
ゴミをまとめて、灰皿を空にして、
テーブルを拭こうとした、その時。
寝室から声がした。
「もっと静かにしろ。」
手が止まった。
……今、なんて?
聞き間違いかと思った。
でも、続けてこう言われた。
「専業主婦なら、俺が寝てる間に済ませるのが当たり前だろ。」
――その瞬間。
何かが、スッと冷えた。
怒りじゃない。
完全に、気持ちが切れた感じだった。
「ああ、そういう認識なんだ」
私は何も言わなかった。
その代わり、手を止めた。
そして、静かに全部戻した。
さっきまとめたゴミを、袋から出す。
吸い殻も、食べかすも、容器も。
一つも減らさず、
“そのままの状態”に戻す。
ただし、場所だけ変えた。
ベッドの横。
サイドテーブル。
そして、旦那のスマホのすぐ隣。
逃げ場のない位置に、全部。
しばらくして、旦那が起きてきた。
リビングに一歩入った瞬間、
動きが止まった。
「……なにこれ」
その顔を見て、
初めて少しだけスッとした。
私は何も言わなかった。
ただ、一歩近づいて。
静かに言った。
「この状態で寝てみて」
空気が止まった。
さっきまでの余裕は、完全に消えてた。
目線が泳ぐ。
でも、何も言えない。
当然だよね。
それ、全部自分がやったことだから。
私はそのまま続けた。
「これが“普通”なんでしょ?」
旦那は何も言い返せなかった。
しばらく黙って、
そのゴミを見ていた。
そしてようやく、ゆっくり動き出した。
一つずつ、片付け始める。
ぎこちない手つきで。
明らかに慣れてない動き。
でも、それでいいと思った。
今まで全部、こっちがやってきた。
何も言わずに、当たり前みたいに。
だからこそ、あの言葉が出た。
「専業主婦なら当然」
その“当然”って、誰が決めたの?
私はその日、何もしなかった。
料理もしない。
洗濯もしない。
掃除もしない。
全部止めた。
旦那は最初、何も言わなかった。
でも時間が経つにつれて、
少しずつ困り始めた。
キッチンを見て、
洗濯物を見て、
何度もため息をつく。
そして、しばらくして。
小さく言った。
「……さっきは、言いすぎた」
やっと出た、その一言。
でも私は、すぐには動かなかった。
一度崩れた“当たり前”は、
簡単には戻さない。
じゃないと、また同じになるから。
これって、
私がやりすぎなのか、
それとも、やっと対等になっただけなのか。
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