給料明細を手にした瞬間、心臓がキュッと縮んだ。
2026年4月24日、支給日。差引支給額──101,861円。
いや、待て。社会保険料、厚生年金、雇用保険……控除額の合計を見れば、月給は軽く20万円を超えていたはずだ。なのに手元に残るのは、たったの10万円ちょっと。計算が合わない。頭の中で数字を繰り返す。
私は深く息を吸った。机に広げた明細を指でなぞりながら、現実を再確認する。健康保険料12,805円、介護保険料2,106円、厚生年金23,790円、雇用保険1,327円……。次々に目に入る控除項目。それだけでも目がくらむのに、所得税5,250円、住民税10,500円、日親会3,000円。合計で16万円超え──たしかに引かれすぎだ。
だが、数字の問題だけではない。心の奥底を刺すのは、別の現実。妻は不倫をして、子どもを連れ去った。離婚調停も何もかもが終わったわけではないが、法的に養育費の差押えが決まり、私はもう自由に使えるお金がほとんどない。
月に10万円。それが今の私の生活のすべてだ。
ふと窓の外を見る。春の光が柔らかく差し込み、隣の家の庭では子どもたちが楽しそうに遊んでいる。無邪気な笑い声が聞こえる。心の中で、自分の子どももこの光景の中にいるはずだったのに──という思いが、重く胸を押し潰す。
「これが、俺の末路か……」
口に出すと、むしろ虚しくなるだけだ。自分の過去の選択や、信じた人への期待が、こんな形で返ってくるなんて。思考がぐるぐる回る。給与から差し引かれた養育費、税金、社会保険……現実は、容赦なく私から生活の自由を奪う。
仕事場では、同僚たちが何気ない話題で笑っている。昼食に何を食べるか、休日にどこに行くか……そんな会話を聞きながら、私は自分の状況を冷静に観察する。手元に残ったお金はわずか。生活費を切り詰め、電気代、水道代、食費を計算しながら、一日一日を乗り越えるしかない。
だが、怒りと皮肉が私の中に静かに芽生える。
「不倫して子どもを連れ去った妻よ、養育費を差し押さえられた俺を見ろ。これが現実だ」
誰にも聞かれることのない独り言が、私の心の中でこだまする。正直なところ、社会制度が冷徹なのか、運命が冷たいのか、皮肉なのか、その境界は曖昧だ。しかし、現実は容赦なく数字となって示される。
支給明細を閉じ、私は深呼吸をひとつする。
生活は厳しい。だが、数字だけではなく、心の整理も必要だ。感情に流されれば、生活すら破綻しかねない。計画的に、慎重に、今の状況を生き延びるしかない。
ふと笑みが漏れる。苦い笑いだ。
「結局、俺の給料は10万円か……。自由に使えるお金はほとんどない。だが、この数字を呪うだけじゃ何も変わらない」
皮肉な現実に対して、私は少しだけ冷静になり、次の一歩を考える。借金も、差押えも、失った家族も、すべてが今の自分を形作る材料だ。これを乗り越えた先に、ほんのわずかでも希望があるかもしれない。
そして私は、もう一度支給明細を机の上に置き、数字を見つめる。社会保険料、税金、養育費……すべてが現実の証。重くのしかかるが、逃げられない現実を受け入れるしかない。10万円。これが、今の私の全てだ。
深く息を吸い、私は覚悟する。厳しい現実も、皮肉な運命も、全て受け入れ、日々を生き延びる──そう決意する瞬間だった。