「制服のポケットの中で、黒い触角がカサカサ動いた。」
着替えようとして手を入れた瞬間、指先に触れたのは――ゴキブリだった。
思わず息が止まる。
その時、更衣室のドアの外から男の笑い声が聞こえた。
「そろそろ叫ぶんじゃね?」
この二人、今日が初めてじゃない。
新人が入るたび、同じ“遊び”を繰り返してきた連中だ。
しかも一人はスマホを構えていた。
どうやら私の悲鳴を撮るつもりらしい。
でも私は叫ばなかった。
制服ごと袋に入れて、
そのまま昼の部署会議に持っていった。
この二人はまだ知らなかった。
その袋の中身が、昼の会議室で開かれることを。
私はそのまま制服を袋に入れ、ゴキブリが逃げないよう口をきつく縛った。
ドアの外ではまだ笑い声が続いていた。
「絶対びびってるって」
「新人ってほんと面白いよな」
私は何も言わず、更衣室を出た。
二人は一瞬だけこちらを見たが、私が叫ばなかったことに拍子抜けしたのか、すぐに興味を失ったようにスマホを下ろした。
でもその顔を、私は忘れないと思った。
この二人は、前から有名だった。
新人が入ると必ず何か仕掛ける。
机に虫のおもちゃを置いたり、椅子を引いたり、書類を隠したり。
最初は「冗談」で済まされる。
でも新人が困った顔をすると、周りで笑う。
それが、この二人のいつものやり方だった。
ただ、今回は少しやり過ぎだと思った。
私は袋を持ったまま、自分の席に戻った。
午前中は普通に仕事をした。
二人は何度かこちらをちらっと見ていた。
でも私が何も言わないので、つまらなそうにしていた。
きっと思っていたんだろう。
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