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「20ユーロで済むと思ってるの?」京成上野駅のエスカレーターで、上から転がり落ちてきた大柄な外国人男性を、私はスーツケースで必死に食い止めた。大事故は防げたが、壊れたキャリーを見た相手が差し出したのは、まさかの20ユーロだけだった。
2026/07/06

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京成上野駅のエスカレーターに乗った時、私は何も特別なことを考えていなかった。

旅行帰りだった。

手にはスーツケース。

肩には荷物。

少し疲れていたけれど、あとは電車に乗るだけ。

いつもの駅の、いつもの流れだった。

エスカレーターには数人が乗っていた。

前にも人がいる。

後ろにも人がいる。

私はスーツケースの持ち手を握り、段差に気をつけながら立っていた。

その時だった。

背後から、変な音がした。

ドン。

ガタン。

人の足音ではない。

荷物が落ちた音とも違う。

何か大きなものが、段差を跳ねるように落ちてくる音。

私は反射的に振り返った。

次の瞬間、血の気が引いた。

上から、大柄な外国人男性が転がり落ちてきていた。

体勢を崩したのか。

足を滑らせたのか。

詳しいことは分からない。

でも、その体はエスカレーターの段差にぶつかりながら、こちらへ向かって落ちてきていた。

一瞬だった。

逃げる時間なんてなかった。

横に避けようにも、エスカレーターの幅は限られている。

前には人がいる。

後ろからは男性が落ちてくる。

私はとっさに、スーツケースを前に出した。

受け止めるというより、食い止めるしかなかった。

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ガンッ。

ものすごい衝撃が手に来た。

スーツケースが大きく揺れた。

持ち手がしなり、角が段差にぶつかった。

私は両手で必死に押さえた。

「止まって、止まって……!」

声にならない声が喉の奥で詰まった。

もし、このまま男性が下まで転がり落ちたら。

前にいる人を巻き込んだら。

頭を打ったら。

首をやったら。

本当に、命に関わるかもしれない。

そのくらいの高さと勢いだった。

ようやく動きが止まった時、私の腕は震えていた。

男性は何とか起き上がろうとしていた。

周りの人も驚いていた。

誰かが駅員を呼びに行った。

私はスーツケースを見た。

角が割れていた。

持ち手の部分もおかしい。

さっきまで普通に使えていたものが、一瞬で壊れていた。

でも、その時はスーツケースどころではなかった。

人が大怪我しなかったこと。

前の人を巻き込まなかったこと。

それだけで頭がいっぱいだった。

男性は立ち上がると、困ったような顔をした。

そして、私のスーツケースを見て、片言の言葉で謝った。

「ごめんなさい」

そこまでは、まだ分かる。

事故だったのかもしれない。

わざとではないのかもしれない。

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でも次の瞬間、男性は財布から紙幣を出した。

差し出されたのは、20ユーロ。

私は一瞬、意味が分からなかった。

「これで」

そんな雰囲気だった。

謝罪。

補償。

終わり。

男性の中では、そういうことらしかった。

私は壊れたスーツケースを見た。

角は割れている。

持ち手も曲がっている。

このまま旅行用として使えるかも怪しい。

それなのに、20ユーロ。

しかも日本円ですらない。

私は思わず聞いた。

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