最初に気づいたのは、定休日の昼過ぎだった。
会社の駐車場に、一台の黒い車が停まっていた。
見覚えはない。
取引先の車でもない。
社員の車でもない。
しかも、停め方が妙だった。
来客用の位置でもなく、搬入口に近い場所。
そこに、当然のような顔で黒いライズが置かれていた。
私は最初、誰かが間違えて入ったのかと思った。
近くの会社の人か。
道に迷った人か。
少しだけ停めて、すぐ戻ってくるのか。
そう考えて、しばらく待った。
でも、誰も来ない。
車内を確認しても、人はいない。
フロントガラスの内側に連絡先もない。
鍵もついていない。
つまり、こちらでは動かせない。
ただ、そこに置かれているだけ。
でも、こちらにとっては“ただ”ではない。
そこは会社の敷地だ。
明日は通常営業。
朝から業者の車が入る。
荷物の搬入もある。
このまま残られたら、確実に邪魔になる。
私はだんだん腹が立ってきた。
なぜ、こちらが困らなければいけないのか。
なぜ、勝手に停めた人の都合に、会社側が振り回されなければならないのか。
しかも定休日。
人が少ない日を選んだようにも見える。
私はスマホを出した。
車の位置。
会社の建物との距離。
駐車場内に無断で入っていること。
周囲の状況。
全部、写真に残した。
もちろん、車には触らない。
動かそうともしない。
紙を貼ることもしない。
そういうことをすれば、こちらが不利になる可能性がある。
私は感情を抑えて、防犯カメラを確認した。
映像には、はっきり映っていた。
道路から入ってくる黒いライズ。
迷う様子もなく、敷地内に進む。
そして車を止める。
運転手が降りる。
周囲を少し見て、そのままどこかへ歩いていく。
それから、戻ってこない。
時間を確認すると、もう1時間以上経っていた。
私は思わずつぶやいた。
「これ、普通に迷惑だろ……」
その時点で警察に連絡することも考えた。
でも、もう少しだけ待つことにした。
本当に体調が悪くなったのかもしれない。
急用があったのかもしれない。
そんな可能性を、まだ完全には捨てきれなかった。
けれど、さらに1時間が過ぎた。
状況は変わらなかった。
黒いライズは同じ場所に停まったまま。
持ち主は戻ってこない。
私は警察に連絡した。
「会社の私有地に、知らない車が無断で停まっています。
1時間以上ではなく、もう2時間近く動きがありません」
電話口で、場所と状況を説明した。
鍵がないこと。
連絡先がないこと。
明日の業務に影響が出る可能性があること。
防犯カメラに入庫時刻が残っていること。
警察の人は落ち着いた声で言った。
「現場を確認します」
しばらくして、パトカーが来た。
警察官は車を確認し、私に状況を聞いた。
私は写真と映像の時間を見せた。
警察官の表情が少し変わった。
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