最初にその白い車を見たのは、夕方の帰り道だった。
徳島市内の道路。
交通量はそれなりにあったけれど、渋滞というほどではない。
私はいつも通り、制限速度に合わせて走っていた。
急いでいたわけでもない。
遅すぎたつもりもない。
ただ、安全に帰りたかっただけだった。
しかし、後ろから一台の車が急に近づいてきた。
白いスポーツタイプの車。
ルームミラーに映った瞬間、嫌な圧を感じた。
距離が近い。
近すぎる。
ブレーキを踏めば、そのままぶつかるんじゃないかと思うほどだった。
私は少しだけ左に寄った。
でも相手は離れない。
むしろ、さらに詰めてきた。
クラクションが鳴った。
短く、でも明らかに苛立った音だった。
心臓が嫌な跳ね方をした。
「何なの……」
手のひらに汗がにじんだ。
信号で止まると、その車は後ろで大きくハンドルを切るように揺れた。
まるで、私に早く行けと言っているようだった。
青になって発進すると、今度は横に出てきた。
窓越しに、運転席の人物が何かを言っているのが見えた。
内容までは聞こえない。
でも表情と動きだけで十分だった。
怒っている。
威圧している。
私は視線を合わせなかった。
怖かったからだ。
その場で言い返す勇気なんてなかった。
ただ、事故だけは起こしたくなかった。
私は近くの広い駐車場に入った。
白い車はしばらく後ろにいたが、やがて別方向へ走っていった。
その瞬間、ようやく息ができた。
足が震えていた。
何もされなかった。
ぶつけられたわけでもない。
でも、あれは普通の運転ではなかった。
私はすぐにドライブレコーダーを確認した。
後方カメラに、はっきり映っていた。
異常に近い車間。
信号待ちでの動き。
横に並んだ瞬間。
そして、車の特徴。
私は映像を保存した。
その場でSNSに出そうとは思わなかった。
怒りはあった。
悔しさもあった。
でも、ナンバーや顔が映った映像をそのまま出せば、こちらが別の問題を抱えることになる。
だから私は、まず警察に相談した。
受付で状況を説明した。
映像もあると伝えた。
しかし、返ってきた言葉は重かった。
「事故や接触がない場合、すぐに動くのは難しいこともあります」
分かっている。
そう言われる気はしていた。
でも、納得はできなかった。
怖い思いをした側が、何もなかったことにするしかないのか。
相手がまた同じことをしたら。
次は誰かが事故を起こしたら。
そう思うと、黙っていられなかった。
数日後。
私は買い物のため、ある施設の駐車場に入った。
そこで、見覚えのある白い車が目に入った。
低い車高。
特徴的な後ろ姿。
車体の雰囲気。
一瞬で、あの時の記憶が戻った。
胸の奥が冷たくなる。
「あの車だ」
そう思った。
でも、次の瞬間、違和感があった。
ナンバーが違う。
前にドラレコに映っていた番号と、今見えている番号が一致しない。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください