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「私の名前だけが何度も書かれていた」認知症の夫が残した最後のラブレターに、涙が止まらなかった話
2026/07/01

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夫と暮らしていると、一日はゆっくり進むようで、急に崩れる。

朝、同じことを三回聞かれる。

昼、さっき食べたご飯を忘れる。

夕方、私の顔を見て少し迷う。

「……誰だっけ」

そう言われた日は、胸の奥が静かに割れる。

怒りたいわけじゃない。

責めたいわけでもない。

夫が悪いわけではない。

分かっている。

分かっているのに、涙が出そうになる。

認知症というものは、記憶だけを奪っていくのではない。

一緒に過ごした時間の形まで、少しずつ変えてしまう。

夫は昔、口数の多い人ではなかった。

愛してるなんて、簡単に言う人でもなかった。

結婚記念日も、特別な演出はしない。

花束より、帰りに買ってきた大福。

高級レストランより、家で食べる焼き魚。

そんな人だった。

でも、不器用な優しさはあった。

寒い日は、私の湯のみだけ先に温めてくれた。

買い物帰りには、重い袋を何も言わずに持ってくれた。

私が疲れている時は、黙って洗い物をしてくれた。

「ありがとう」と言うと、

「別に」

それだけ。

でも、背中は少し照れていた。

そんな夫が、少しずつ変わっていった。

最初は小さな忘れ物だった。

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財布を置いた場所が分からない。

約束の日を間違える。

同じ話を繰り返す。

年のせいだと思った。

疲れているだけだと思いたかった。

でも、ある日、夫が玄関で立ち尽くしていた。

「ここ、うちか?」

その一言で、私は現実から逃げられなくなった。

病院へ行き、診断を受けた。

説明は丁寧だった。

進行。

症状。

介護。

生活の工夫。

先生の声は聞こえていた。

でも、私の中では別の音がしていた。

これから夫は、私を忘れていくのだろうか。

私たちの結婚生活も、子どもたちのことも、旅行のことも、喧嘩した夜も、仲直りした朝も。

全部、少しずつ遠くなるのだろうか。

帰り道、夫はいつもと同じように歩いていた。

私はその横顔を見ながら、手をつなぐべきか迷った。

いつもなら照れて嫌がる。

でも、その日は黙って手を差し出した。

夫は不思議そうに見たあと、ぎゅっと握り返してくれた。

その手の温かさに、私は泣きそうになった。

家での生活は、だんだん変わった。

薬の管理。

予定表。

名前のラベル。

玄関の鍵。

ガスの確認。

一つ一つ、私が見守ることが増えた。

夫は時々、申し訳なさそうに笑った。

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「迷惑かけるな」

私はそのたびに首を振った。

「迷惑じゃないよ」

本当は大変だった。

眠れない夜もあった。

怒ってしまった日もある。

同じ質問に、優しく返せない時もあった。

そのあと、自己嫌悪で台所に立ったまま涙が出た。

でも、夫はそれも忘れる。

私だけが覚えている。

それが、少しずるいと思った。

ある日、部屋を片づけていた時だった。

引き出しの奥から、一冊のノートが出てきた。

古いノート。

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