数年前、うちのマンションの隣にジムができた。
最初は、そこまで悪い印象はなかった。
健康的でいいじゃないか。
明るい施設ができれば、夜道も少し安心かもしれない。
そう思っていた。
実際、昼間は普通だった。
利用者が出入りする。
車が来る。
自転車が止まる。
それくらいなら、こちらも何も思わない。
問題は夜だった。
閉店時間は二十三時。
そこまでは分かる。
ジムだから、仕事帰りの人も来る。
遅い時間まで営業するのも理解できる。
けれど、本当の騒音は閉店後に始まった。
二十三時を過ぎる。
シャッターが下りる。
照明が少し暗くなる。
普通なら、そこで静かになるはずだった。
ところが、そこからが本番だった。
外に出てきた従業員らしき人たちが、駐車場や建物の前で話し始める。
最初は二、三人。
その日は三人だった。
でも多い日は六人、七人。
夜の空気の中で、その声はよく響く。
昼間なら気にならない笑い声も、夜中の住宅地では別物になる。
窓を閉めても聞こえる。
カーテンを引いても聞こえる。
布団に入っても聞こえる。
「今日さー」
「マジで?」
「それやばくない?」
内容までははっきりしない。
でも、声の大きさだけははっきり届く。
私はベッドの中で目を開けたまま、天井を見ていた。
時計を見る。
二十三時二十分。
まだ話している。
もう一度見る。
二十三時四十分。
まだ笑っている。
日付が変わる前まで、ずっとだ。
こちらは明日も仕事がある。
早く寝たい。
ただそれだけなのに、隣から延々と閉店後の反省会なのか雑談なのか分からない声が流れてくる。
毎晩続くと、人間はだんだん削られる。
一日だけなら我慢できる。
たまたま盛り上がったのかもしれない。
久しぶりに会ったのかもしれない。
でも、毎日となると話が違う。
もはや騒音イベントの定期開催である。
しかも、参加費無料。
いや、こちらは睡眠時間で払わされている。
ある夜、とうとう我慢できなくなった。
窓の隙間から外を見た。
建物の前に数人の影。
明らかに利用客が帰った後の雰囲気だった。
服装や立ち位置からして、従業員に見える。
楽しそうだった。
それはもう、楽しそうだった。
こちらの部屋では、私は枕を握りしめているというのに。
私はスマホを取った。
口コミに書いた。
「夜、閉店後に外で話す声がうるさい」
できるだけ冷静に書いたつもりだった。
怒鳴り散らしたい気持ちはあった。
でも、感情的になりすぎると、ただのクレーマー扱いされる。
だから事実だけを書く。
閉店後。
二十三時から二十四時頃。
複数人。
大きな声。
近隣住民として迷惑。
それだけを伝えた。
しばらくして、店側の返信が載った。
私は画面を見て、目を細めた。
そこには、こんな趣旨のことが書かれていた。
「該当するお客様に注意しました」
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