買い物のついでに、近くのコインパーキングへ入った。
いつも使っているタイムズだった。
黄色い看板。
「24h」の文字。
料金表。
白いフェンス。
どこにでもある普通の駐車場。
私は車を停める場所を探しながら、奥へゆっくり進んだ。
その時だった。
視界の端に、妙なものが映った。
フェンスの向こうに、銀色の車が停まっている。
最初は、隣の敷地の車かと思った。
でも違う。
どう見ても、駐車場の中にいる。
いや、正確には「駐車場の一部だった場所」に閉じ込められている。
私は思わずブレーキを踏んだ。
「……え?」
フェンスで囲まれた区画。
そこに、古いセダンが一台。
前にも横にも白い柵。
後ろにも柵。
入口らしきものは見当たらない。
しかも、車の横には「場内禁煙」「ゴミ捨て禁止」の注意看板まで貼られている。
ちゃんと管理されている。
ちゃんと囲われている。
ちゃんと閉じ込められている。
私は車を降りて、近づいた。
何度見ても同じだった。
銀色の車は、完全にフェンスの中にいた。
まるで動物園の展示車両。
説明文をつけるなら、
「こちらは出られなくなったセダンです。
刺激しないでください」
そんな感じだった。
私は口に出してしまった。
「おまえ……どうやって出るねん……」
答えは当然ない。
車は無言でそこにいる。
堂々としているようにも見える。
諦めているようにも見える。
むしろ、達観しているようにも見える。
私は周囲を見回した。
入口はない。
フェンスに扉もない。
一部が外せるようにも見えない。
車止めもある。
雑草も少し伸びている。
つまり、今日ちょっと間違えて入ったというより、そこそこ長くそこにいる雰囲気がある。
いや、怖い。
どういう経緯でそうなった。
まだフェンスができる前に停めたのか。
工事中に置き去りにされたのか。
持ち主が戻ってきたら、そこだけ世界が変わっていたのか。
「昨日まで普通に出られたのに、今日は檻の中」
そんな展開、車側も聞いていないだろう。
私は勝手に想像してしまった。
ある日、持ち主がここへ車を停める。
「ちょっとだけ」と思って帰る。
数日後、戻ってくる。
すると、車の周りに白いフェンス。
黄色い看板。
注意書き。
完全封鎖。
持ち主は立ち尽くす。
「俺の車、どこから出すんですか」
管理会社は言う。
「すみません、まず確認します」
確認しているうちに季節が変わる。
そして現在。
銀色の車は、静かにフェンス内で余生を過ごしている。
もちろん、本当の理由は分からない。
廃車予定なのかもしれない。
管理側が置いている車かもしれない。
何か事情があって保管しているだけかもしれない。
でも、見た目のインパクトが強すぎる。
普通のコインパーキングに、突然現れる「脱出不能車」。
謎解きゲームなら、まずこの車を動かすための鍵を探すところから始まる。
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