「誕生日の食事会で、俺が持ってきた花を“みんなからでーす”って言われた。」
一瞬、意味が分からなかった。
結婚式でも披露宴でもない、ただの誕生日の食事会。
だからこそ、ちゃんとしたお祝いを用意しようと思って、
自分で花を選んで、ラッピングもしてもらって持ってきた。
席に着いて、タイミングを見て渡した。
その瞬間だった。
「みんなからのお祝いでーす!」
横から、あっさり言われた。
——は?
周りはそのまま受け取りかけてる。
完全に“みんなから”の流れ。
いやいや、待って。
俺はそのまま、普通のトーンで言った。
「は?みんな何もしてないでしょ?」
一瞬、空気が止まる。
でも、そのまま続けた。
「なに寝言言ってるの?」
軽く笑いながら、花を指して。
「これ、僕からのお祝いです」
完全に言い切った。
周りが「え、たしかに」ってざわつき始める。
さっきのあの人、顔が固まってる。
正直、この人こういうの初めてじゃない。
前からちょいちょい、
人の分に乗っかるというか、
“みんなで”ってことにしたがるタイプ。
その場の空気で、うまく自分も乗せようとする。
悪気がないのかもしれないけど、
やられる側は普通に分かる。
だから今回は、そのまま流さなかった。
一回でもちゃんと線を引かないと、
こういうのはずっと続く。
まあ、これで終わり——
のはずだった。
その人が、急に言い出した。
「いやいや、私もちゃんと用意してるし!」
そう言って、バッグをゴソゴソし始める。
周りも「え、なに?」って空気になる。
取り出したのは——
スクラッチくじ。
しかも、ちょっと折れてる。
端がヨレてて、袋もない。
どう見ても、“ついでにもらったやつ”。
でも本人は勢いよく言う。
「これ当たるかもしれないから!Switchとか!」
いや、そのノリで出すものじゃないでしょ。
でも引っ込みがつかないのか、
そのまま続ける。
「ほら、今削って!」
主役に押し付ける。
周りも半分ノリで、「いいじゃん削ってみてよ」ってなる。
主役も苦笑いしながら、コインを取り出した。
「じゃあ…いくね」
ガリガリ、と削る音。
みんな何となく見てる。
どうせ外れだろう、くらいのテンション。
——次の瞬間。
「……え?」
手が止まった。
「当たってる…?」
一瞬、全員が固まる。
「え、ちょっと待って見せて」
覗き込む。
——当たり。
普通に当たってる。
「え!?」「マジで!?」
一気に空気が変わる。
さっきまでの軽いノリが、一瞬で本気のざわつきに変わる。
で。
一番変わったのは——
さっきのあの人。
「え、それ私が買ったやつだから」
空気が、もう一回止まる。
「これ、私が交換するやつだよね?」
いやいやいや。
さっきまで“お祝い”って言ってたよね?
周りも一瞬静かになる。
さっきまで笑ってたのに、今度は別の意味で固まる。
でも俺は、普通に言った。
「さっき“お祝い”って言ってたよね」
相手、言葉に詰まる。
「それなら、もう誰のものか決まってるでしょ」
シンプルに、それだけ。
変に責めない。
ただ、事実だけ置く。
周りから「それはそう」って小さい笑いが漏れる。
完全に流れが変わった。
その人、何も言えなくなってる。
俺は隣の主役の手を軽く引いた。
「じゃ、行こっか」
「え、いいの?」
「いいでしょ、お祝いなんだから」
そのまま二人で席を立つ。
後ろで誰かが「行ってらっしゃい!」って笑ってる。
さっきの人は、椅子に座ったまま動けない。
ちょっと面白いくらい静かだった。
店を出て、くじの交換に向かう。
歩きながら、主役が笑い出した。
「なんか今日すごいね」
「だね」
「花ももらって、くじも当たって」
「全部持ってったね」
二人で笑う。
変な重さは一切ない。
ただ普通に、楽しい。
店に戻ると、みんなもう普通に盛り上がってた。
さっきの空気も、どこかに消えてる。
あの人も、何事もなかったみたいに話してる。
たぶん、あれ以上触れないのがちょうどいい距離なんだと思う。
でも一つだけはっきりしてる。
あのまま何も言わなかったら、
花も“みんなのもの”になって、
くじもたぶん持っていかれてた。
遠慮しないって、別に空気を壊すことじゃない。
ちゃんと線を引くだけ。
それだけで、むしろ全部うまく回る。
そして——
「“みんなから”って言った時点で、最後までやり切ればよかったのに。」
引用元:,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]