「すみません、そこ代わってもらえませんか?」
22時過ぎの電車だった。
残業終わり。
朝からずっと立ちっぱなし、
昼休みもまともに取れず、
クレーム処理まで押しつけられて、
もう身体が限界だった。
やっと座れた電車の席。
私はイヤホンもつけず、
ただ静かに最寄り駅まで帰りたかった。
その時だった。
次の駅で、
ディズニー帰りらしいカップルが乗ってきた。
彼女はカチューシャ姿。
両手いっぱいのお土産袋。
彼氏は私の隣に座った。
彼女はその前に立ちながら、
わざと聞こえる声で言い始めた。
「はぁ〜疲れたぁ〜」
「今日めっちゃ歩いたよねぇ」
「眠い〜座りたい〜」
チラチラ、
こっちを見てくる。
私は無視した。
すると彼女、
急に私へ身体を寄せてきた。
「すみません」
私は顔を上げた。
彼女はニコニコしながら、
隣の彼氏を指差した。
「私、彼氏と隣で座りたいんで、
そこ代わってもらえませんか?」
一瞬、
意味が分からなかった。
私は彼氏を見た。
普通に元気そう。
しかも優先席でもない。
なぜ、
彼氏に立ってもらうんじゃなくて、
仕事帰りの知らない私を立たせる前提なのか。
私は静かに答えた。
「私も座りたいです」
彼女がキョトンとした。
「え?」
「いや、そうじゃなくて…
彼氏と隣に座りたいんです」
私はすぐ返した。
「私もあなたの彼氏の隣に座りたいです」
空気が止まった。
彼氏、
「は?」みたいな顔。
彼女も笑顔が消える。
私は続けた。
「だから今ここに座ってます」
「私も疲れてるので、譲るつもりはありません」
彼女の顔が一気に赤くなった。
「え、なんか感じ悪…」
彼氏も鼻で笑った。
「ちょっとくらい譲れば?」
私は彼を見た。
「じゃあ、あなたが立てばいいじゃないですか」
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