コンビニでバイトしていて、変なお客さんには何度も会ってきた。
コピー機の前で通帳を置き忘れる人。
免許証を置いたまま帰る人。
「拡大ってどこ押すの?」と毎回レジまで聞きに来る人。
でも、その日だけは別格だった。
昼のピークが終わって、店内が少し静かになった頃。
ひとりのおじさんが、白い袋をぶら下げてコピー機の前に立っていた。
私はレジで品出しの確認をしていたんだけど、袋から少し水が落ちているのが見えた。
嫌な予感がした。
すると、おじさんがこっちを向いて言った。
「すみません、これって魚拓みたいにできます?」
一瞬、意味が分からなかった。
魚拓。
コピー機。
コンビニ。
この3つが、頭の中で全然つながらない。
私が「え?」と聞き返す前に、おじさんは袋の中から魚を出した。
本当に魚だった。
しかも小さくない。
普通に今日の夕飯に出てきそうなサイズ。
私は固まった。
「申し訳ありませんが、食品をコピー機に置くのは……」
そう言いかけた、その時。
隣にいた同僚が、なぜか一歩前に出た。
そして、コピー機の画面を見ながら真顔で言った。
「白黒より、カラーのほうが鱗まで出るかもしれませんね」
私は同僚を見た。
おじさんも同僚を見た。
コピー機も、たぶん同僚を見ていたと思う。
いや、そこじゃない。
問題は画質じゃない。
止めるところだ。
全力で止めるところだ。
私は慌てて言った。
「いやいやいや、ダメです。コピー機に魚は置けません」
すると同僚が、さらに真面目な顔で言った。
「でも直接置くと汚れるので、間にキッチンペーパーを敷けば……」
違う。
惜しくもない。
工夫の方向が全部間違っている。
おじさんはそれを聞いて、少し安心したような顔をした。
「じゃあ、それで頼むわ」
頼むな。
受けるな。
私はもう一度、はっきり言った。
「できません。コピー機は紙の原稿をコピーする機械です」
でもおじさんは不満そうだった。
「昔は墨で魚拓取ったんだよ。今は便利な時代なんだから、コピーでもいいじゃん」
便利って、そういう意味じゃない。
私は心の中で叫んでいた。
しかも同僚が小声で、
「A3なら全体入るかも……」
とつぶやいた。
もう黙ってほしかった。
頼むから、技術的に可能かどうかを検討しないでほしい。
その時、奥から店長が出てきた。
たぶん私の声がいつもより高かったんだと思う。
店長はコピー機の前の状況を見た。
魚を持つおじさん。
設定画面を見ている同僚。
止めようとしている私。
3秒くらい沈黙してから、店長が言った。
「何をしてるの?」
私が説明する前に、同僚が言った。
「魚拓のコピー相談です」
相談にするな。
案件みたいに言うな。
店長の目が、一瞬だけ遠くなった。
でもすぐに表情を戻して、おじさんに向き直った。
「申し訳ありません。食品、生もの、濡れたものはコピー機に置けません」
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