最初に気づいたのは、私じゃなくて先輩だった。
昼過ぎのコンビニ。
レジが少し落ち着いて、揚げ物の補充をしようとしていた時だった。
先輩がコピー機の前で立ち止まって、
「ねえ、これ……なんか変じゃない?」
と言った。
最初は紙詰まりかと思った。
コピー機って、たまに変な音がしたり、用紙が斜めに入ったりするから。
でも近づいた瞬間、違うと分かった。
生臭い。
はっきり言って、店内にあっていいニオイじゃない。
私は思わず一歩下がった。
「え、なにこれ」
先輩がコピー機のフタをそっと開けた。
その瞬間、2人で無言になった。
ガラス面に水滴。
端のほうに、銀色っぽい細かい跡。
しかも、うっすらぬめっとしている。
見た瞬間、頭が追いつかなかった。
コピー機に水分?
コピー機に銀色の跡?
コピー機にぬめり?
普通は絶対につながらない単語が、そこで全部つながってしまった。
「……魚?」
先輩が小さく言った。
私も同じことを思っていた。
でも、認めたくなかった。
だって、コピー機に魚を置く人なんている?
スマホを忘れる人はいる。
免許証を置きっぱなしにする人もいる。
住民票のコピーで慌てる人もいる。
でも、魚。
なぜ魚。
とりあえず店長を呼んだ。
店長は最初、私たちの説明を聞いても笑っていた。
「いやいや、さすがに魚はないでしょ」
そう言いながらコピー機のフタを開けた。
3秒後。
店長の顔から笑顔が消えた。
「……あるね」
その一言が重すぎた。
すぐに使用中止にして、コピー機のメーカーに連絡。
その間にも、お客さんが何人か来た。
「コピー使えないんですか?」
「すみません、今ちょっと点検中で……」
理由を聞かれても、正直に言う勇気がなかった。
「魚をコピーされまして」
なんて、口に出した瞬間に自分のほうがおかしい人みたいになる。
店長も最初は言葉を選んでいた。
「ガラス面に汚れがありまして」
「水分が入った可能性がありまして」
「安全確認が必要でして」
でも途中から、目が完全に遠くなっていた。
メーカーの人が来るまでの間、店長と先輩と私で、監視カメラを確認することになった。
これがまた、想像以上にきつかった。
問題の時間帯は午前10時すぎ。
年配の男性が、レジ袋を持ってコピー機の前に来た。
最初は普通だった。
小銭を入れて、フタを開けて、何かを取り出した。
その瞬間、私たち全員が固まった。
レジ袋から出てきたのは、本当に魚だった。
しかも、わりとしっかりしたサイズ。
男性は周りを少し見てから、何の迷いもなくコピー機のガラス面に置いた。
店長が頭を抱えた。
「なんで迷いがないんだよ……」
先輩が小声で言った。
「手慣れてません?」
私は笑いそうになったけど、笑えなかった。
そのあと男性はフタを閉めようとして、魚の厚みでうまく閉まらず、上から少し押さえていた。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]